【労務担当者向け】発達障害・難治性疾患の社員の雇用と定着を支援する:特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)活用ガイド
はじめに:発達障害・難治性疾患のある方の雇用を取り巻く現状と企業の課題
企業の障がい者雇用を進める上で、近年特に注目が集まっているのが、発達障害や難治性疾患のある方の雇用です。これらの障がいや疾患を持つ方は、一般枠での就職が困難な場合がある一方で、適切な環境と配慮があれば、その能力を発揮し企業に貢献できる可能性を秘めています。
しかし、企業側にとっては、これらの障がい・疾患に関する専門的な知識や、個々の特性に合わせた配慮・支援方法が求められるため、雇用に踏み切る上で不安や課題を感じるケースも少なくありません。
本記事では、発達障害や難治性疾患のある方を雇用する企業を支援するための国の制度、「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)」について、労務担当リーダーの皆様が実務で活用できるよう、その詳細な内容、申請方法、そして活用にあたってのポイントを解説します。
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)とは
制度の目的と概要
特定求職者雇用開発助成金(通称:特定就職困難者コース)は、高齢者や障がい者、母子家庭の母など、就職が特に困難とされている方を、ハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。
このうち、「発達障害者・難治性疾患患者等コース」は、その名の通り、特定求職者の中でも特に発達障害者や難治性疾患患者の雇用促進と職場定着を支援することを目的としています。これらの障がいや疾患の特性に応じたきめ細やかな支援を企業が行うための経済的負担を軽減し、雇用の機会を拡大することを目指しています。
対象となる事業主、労働者、雇用等の要件
本助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)を受給するためには、以下の詳細な要件を満たす必要があります。
1. 対象となる事業主
- 雇用保険の適用事業所の事業主であること。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等(特定地方公共団体を含む)の紹介により対象労働者を雇い入れること。
- 対象労働者を、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れること。
- 対象労働者を、原則として期間の定めのない労働者として雇い入れること。
- 対象労働者の労働時間が、週所定労働時間20時間以上であること。
- 対象労働者を雇い入れた事業所において、対象労働者を離職させた場合に助成金が支給されない期間(不支給期間)に該当しないこと。
- 過去に不正受給等を行っていないこと。
- 労働関係法令を遵守していること。
2. 対象となる労働者
ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介時点で、以下のいずれかに該当する方が対象となります。
- 発達障害者: 医師の診断書等により発達障害と診断された方、または発達障害者支援センター、障害者職業センター、医療機関等により発達障害であると判断された方。
- 難治性疾患患者: 難病の患者に対する医療等に関する法律に規定する指定難病患者で、就職が困難な方。
- 指定医等の意見書等で判断された方: 上記に準ずる方として、地域障害者職業センター等による職業能力の評価・支援等を受けており、指定医等の意見書等により就職が困難であると判断された方。
重要な要件: * 紹介元: 必ずハローワーク等の紹介である必要があります。自己応募や縁故採用は対象外です。 * 雇入れ前の状況: 雇入れ日の前日から過去1年間に、対象となる事業主に雇用されたことがない方が原則です。
3. 雇用に関する要件
- 雇用期間: 原則として、期間の定めのない雇用であること。
- 労働時間: 週の所定労働時間が20時間以上であること。
- 適用保険: 雇用保険の被保険者として適用されること。
支給額と支給期間
支給額は、対象労働者の種類や企業の規模(中小企業かそれ以外か)によって異なります。
- 中小企業の場合:
- 対象労働者1人につき、最大120万円が支給されます。
- 支給は、雇入れ日から6ヶ月ごとに分割して行われます。最初の6ヶ月で60万円、その後の6ヶ月で60万円が支給されます(合計1年間)。
- 中小企業以外の場合:
- 対象労働者1人につき、最大50万円が支給されます。
- 支給は、雇入れ日から6ヶ月ごとに分割して行われます。最初の6ヶ月で30万円、その後の6ヶ月で20万円が支給されます(合計1年間)。
※支給額には上限があり、対象労働者に支払った賃金に基づき算定される場合もあります。正確な支給額や算定方法は、申請時の最新情報をご確認ください。
申請方法と手続きの流れ
申請は、対象労働者を雇い入れた後に行います。一般的な流れは以下の通りです。
- 対象者の雇入れ: ハローワーク等の紹介により、要件を満たす労働者を雇い入れます。
- 支給申請書の提出: 雇入れ日から一定期間内(原則として賃金を締めた日の翌日から2ヶ月以内など)に、最初の支給期(雇入れ日から6ヶ月経過後)に関する支給申請書を作成し、管轄のハローワークまたは労働局に提出します。
- 審査: 提出された書類に基づき、要件を満たしているか審査が行われます。
- 支給決定・支給: 審査に通過した場合、支給決定通知が届き、指定口座に助成金が振り込まれます。
- 2期目の申請: 最初の支給期から6ヶ月経過後、再度申請期間内に2期目の支給申請を行います。手続きは1期目と同様です。
必要書類の例: * 特定求職者雇用開発助成金支給申請書 * 雇用契約書または労働条件通知書 * 出勤簿、賃金台帳 * 対象労働者の要件を確認できる書類(医師の診断書、療育手帳、障害者手帳、難病指定医の診断書等、ハローワーク等の紹介状など) * 事業所の概要、登記簿謄本(新規申請の場合)など
必要書類は多岐にわたるため、事前に管轄のハローワーク等に確認し、漏れなく準備することが重要です。
この助成金を活用するメリット・デメリット
メリット
- 経済的負担の軽減: 対象労働者の雇用にかかる一定期間(最大1年間)の賃金の一部を助成金で補填できるため、企業の経済的負担が軽減されます。
- 雇用促進: 採用にかかるコストや初期の定着支援にかかるコストへの不安が軽減され、発達障害や難治性疾患のある方の雇用に積極的に取り組みやすくなります。
- 多様な人材の確保: これまで十分に活躍の機会が得られなかった能力のある人材を雇用する機会が得られます。
- 職場環境整備・定着支援への投資促進: 助成金を活用することで、対象労働者の特性に合わせた合理的配慮や、専門機関と連携した定着支援のための体制構築に投資しやすくなります。
デメリット
- 対象要件の厳しさ: ハローワーク等の紹介であること、期間の定めのない雇用であることなど、要件が細かく定められており、全ての雇用ケースが対象となるわけではありません。
- 申請手続きの手間: 必要書類が多く、申請期間も定められているため、労務担当者にとっては一定の手続き負担が発生します。
- 支給までのタイムラグ: 助成金は後払いであり、雇入れから最初の支給までには最低でも6ヶ月以上の期間が必要となります。
活用上の注意点とポイント
- ハローワーク等との密な連携: 対象労働者の紹介を受ける段階から、ハローワークの専門窓口(専門援助部門、障害者専門の窓口等)や地域障害者職業センター、就業・生活支援センター等と密に連携し、対象者の特性や必要な配慮について情報共有を行うことが、適切なマッチングと円滑な雇用につながります。
- 対象者の正確な確認: 雇入れ前に、必ずハローワーク等を通じて対象者要件を満たしているか確認することが重要です。必要に応じて、障害者手帳の確認や、医療機関、支援機関からの情報提供を依頼します(本人の同意が必要)。
- 合理的配慮の提供: この助成金は雇用自体を支援するものですが、対象となる労働者の定着には、個々の特性に応じた合理的配慮(業務内容の調整、指示方法の工夫、休憩場所の確保など)が不可欠です。助成金を、これらの配慮を検討・実施するための経営資源の一部と捉えることも有効です。
- 他の制度との併用可能性: 職場環境改善助成金や障害者介助等助成金など、他の障がい者雇用に関する助成金と併用できる場合があります。必要な支援内容に応じて、複数の制度活用を検討することで、より手厚いサポート体制を構築できます。
- 継続雇用の重要性: この助成金は、継続雇用を前提として支給されます。短期間での離職は、助成金の返還対象となる場合があるため、雇入れ後の定着支援に注力することが最も重要です。
具体的な活用事例(イメージ)
ある中堅製造業A社は、品質管理部門で書類チェックやデータ入力を行う事務職として、ハローワークの紹介により発達障害のあるBさんを雇用しました。Bさんは特定の作業に高い集中力を発揮できる一方、複数の指示が同時に出ると混乱しやすい特性がありました。
A社は、特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)の活用を検討し、ハローワークの専門員と連携してBさんの特性理解に努めました。雇用にあたり、指示は一度に一つずつ、明確な言葉で行うこと、作業手順をマニュアル化すること、集中できる個別の作業スペースを確保することなどの合理的配慮を実施しました。
この雇用により、A社は助成金を受給し、Bさんの雇用にかかる経済的負担を軽減することができました。また、Bさんの高い集中力と正確性が品質管理業務に貢献し、他の社員もBさんの特性を理解し、協力体制を築くことで、チーム全体の生産性向上にもつながりました。Bさんは、企業の手厚いサポートもあり、安定して勤務を続けています。
まとめ
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者等コース)は、発達障害や難治性疾患のある方の雇用を促進し、企業の経済的負担を軽減するための重要な制度です。この制度を有効活用することで、企業は多様な人材を確保し、組織の活性化につなげることができます。
対象者の要件や申請手続きには詳細な規定がありますが、事前にハローワークや関係機関と十分に連携し、計画的に進めることで円滑な活用が可能です。ぜひ本記事を参考に、貴社における発達障害・難治性疾患のある方の雇用促進と定着支援に、この助成金制度の活用をご検討ください。