【労務担当者向け】特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)徹底解説:対象・要件・申請・活用ポイント
はじめに:障がい者雇用を促進する特定求職者雇用開発助成金
企業の法定雇用率達成や、多様な人材の活躍促進を目指す上で、障がい者の雇用は重要な取り組みの一つです。障がい者雇用には、採用から定着、職場環境整備に至るまで様々な支援制度が存在しますが、中でもハローワーク等の紹介を通じて就職が困難な方を雇用した場合に支給される「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」は、多くの企業にとって活用価値の高い制度と言えます。
特に、障がい者を初めて雇用する企業や、これまでの障がい者雇用に加えてさらに雇用を進めたい企業にとって、本助成金は採用に伴う経済的負担を軽減し、雇用後の安定した就労環境整備を後押しする効果が期待できます。
本記事では、障がい者雇用の実務経験をお持ちの労務担当リーダーの皆様が、この特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)をより効果的に活用できるよう、制度の目的、詳細な受給要件、申請手続き、支給額、そして企業側から見たメリット・デメリット、活用上のポイントまでを網羅的に解説いたします。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは
特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者や障がい者等の就職が特に困難な方を、ハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。その中でも「特定就職困難者コース」は、主な対象として障がい者や高年齢者(65歳以上)などが定められています。
この制度の目的は、就職が困難な立場にある方が安定した雇用機会を得られるようにすること、そしてその方々を雇用する事業主の経済的負担を軽減し、雇用の促進を図ることにあります。
詳細な受給要件
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を受給するためには、事業主、対象労働者、そして雇用に関するいくつかの要件を満たす必要があります。
1. 対象となる事業主の要件
- 雇用保険の適用事業所の事業主であること。
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等(厚生労働大臣の許可または届出を受けた無料職業紹介事業者、または有料職業紹介事業者で、ハローワークから求人の開拓等の委託を受けた事業者に限る)の紹介により対象労働者を雇い入れること。
- 対象労働者を、雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、原則として1年以上継続して雇用することが確実であると認められること。
- 対象労働者のために、就業規則等に基づき、労働時間、休日等の労働条件が同一の事業所に雇用される通常の労働者と同等であること。
- 過去に不正受給等を行っていないこと。
- その他、労働関連法令を遵守していることなどが求められます。
2. 対象となる労働者の要件(障がい者の場合)
ハローワーク等の紹介時点において、以下のいずれかに該当する障がい者である必要があります。
- 身体障がい者: 身体障害者手帳を持つ方。
- 知的障がい者: 療育手帳を持つ方、またはそれと同等の知的障がいがあると判定された方。
- 精神障がい者: 精神障害者保健福祉手帳を持つ方、または統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む。)、てんかん等により、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある方。
- 重度身体障がい者、重度知的障がい者: 身体障害者手帳または療育手帳に「重度」の記載がある方、またはこれらと同等の障がいがあると認められる方。
- 45歳以上の身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者: 上記のいずれかに該当し、かつ雇入れ日現在で満45歳以上の方。
また、雇用保険の一般被保険者として雇用されることが要件となります。短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方)を雇用した場合も対象となりますが、支給額は異なります。
3. 雇用に関する要件
- ハローワーク等の紹介日において、対象労働者が離職している、または既にパートタイム労働者や派遣労働者として雇用されており、その事業主が一般被保険者として新たに雇い入れること。
- 原則として、対象労働者を雇用保険の一般被保険者として、かつ1年以上継続して雇用することが確実であると認められる雇用契約を締結すること。
- 雇用契約の締結日が、ハローワーク等の紹介日から起算して概ね1ヶ月以内であること。
- その他、対象労働者の解雇を行っていないこと、労働基準法に基づく手続きを適正に行っていることなどが求められます。
支給額と支給期間
支給額は、対象となる障がい者の種類・程度、および雇入れた労働者の種類(一般被保険者か短時間労働者か)によって異なります。
| 対象労働者 | 雇入れ企業規模(中小企業事業主等以外) | 雇入れ企業規模(中小企業事業主等) | 支給期間 | | :--------------------------- | :------------------------------------- | :--------------------------------- | :------- | | 重度身体障がい者・重度知的障がい者、精神障がい者、45歳以上の身体・知的障がい者 | 100万円(50万円×2期) | 120万円(60万円×2期) | 1年 | | 上記以外の身体・知的障がい者 | 40万円(20万円×2期) | 50万円(25万円×2期) | 1年 |
※( )内は、支給対象期ごとの支給額です。1期は6ヶ月となります。
短時間労働者を雇入れた場合:
| 対象労働者 | 雇入れ企業規模(中小企業事業主等以外) | 雇入れ企業規模(中小企業事業主等) | 支給期間 | | :--------------------------- | :------------------------------------- | :--------------------------------- | :------- | | 重度身体障がい者・重度知的障がい者、精神障がい者、45歳以上の身体・知的障がい者 | 30万円(15万円×2期) | 40万円(20万円×2期) | 1年 | | 上記以外の身体・知的障がい者 | 15万円(7.5万円×2期) | 20万円(10万円×2期) | 1年 |
※上記は令和6年4月現在の情報です。制度改正により金額が変更される場合がありますので、申請前に必ず最新情報を厚生労働省またはハローワークのウェブサイトでご確認ください。 ※中小企業事業主等に該当するかどうかは、業種や企業規模によって定められています。
支給のタイミング: 支給は原則として、雇用日から6ヶ月経過するごとに支給対象期が到来し、その期間の労働状況等を確認した上で支給されます。合計2回の支給(最大1年間の雇用に対して)となります。
申請方法と手続きの流れ
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の申請は、原則として事業所の所在地を管轄するハローワークまたは労働局に対して行います。
- 求人申し込み: まず、ハローワークまたは対象となる民間の職業紹介事業者等に求人を申し込みます。この際、障がい者雇用であることを明確に伝えます。
- 紹介と採用: ハローワーク等の紹介を受けて、対象となる障がい者を採用します。雇用保険の一般被保険者として雇用契約を締結します。
- 支給申請: 雇用日から6ヶ月経過した後に、第一期の支給申請を行います。労働局またはハローワークから送付される「支給申請書」に必要事項を記入し、添付書類とともに提出します。第二期についても同様に、雇用日から1年経過した後に申請を行います。
- 審査・支給決定: 提出された書類に基づき、労働局またはハローワークで審査が行われます。要件を満たしていると判断されれば、支給決定通知が送付され、指定の口座に助成金が振り込まれます。
申請に必要な書類(例):
- 支給申請書
- 雇用契約書または労働条件通知書の写し
- 対象労働者の出勤簿やタイムカード等の写し
- 対象労働者の賃金台帳の写し
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書の写し
- 事業主の印鑑証明書(初回申請時など)
- その他、労働者の状況を確認できる書類(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等の写しなど)
必要な書類は労働局によって異なる場合や、制度改正により変更される場合があります。申請前に必ず管轄の労働局またはハローワークにご確認ください。
企業側から見たメリット・デメリット、利用上の注意点
メリット
- 経済的負担の軽減: 障がい者の採用や雇用継続にかかる人件費等の一部を助成金で賄うことができ、企業の経済的負担を軽減します。特に、初めて障がい者を雇用する場合や、重度障がい者を雇用する場合に効果が大きいです。
- 雇用促進の後押し: 助成金の存在が、企業の障がい者雇用に対するハードルを下げ、積極的に採用を検討するきっかけとなります。
- 雇用の安定: 最長1年間の助成金支給は、初期の雇用期間における企業の経営的な安心感につながり、労働者の安定した雇用に貢献します。
デメリット
- 申請手続きの手間: 申請書類の準備や提出、労働局・ハローワークとのやり取りなど、一定の手続きが必要です。
- 要件の複雑さ: 対象となる障がい者の種類や雇用形態、企業規模によって支給額が異なるなど、要件が複雑に感じられる場合があります。
利用上の注意点
- ハローワーク等の紹介が必須: 本助成金は、ハローワークまたは定められた民間の職業紹介事業者等の紹介による雇用が前提です。自社で直接募集・採用した場合は対象になりません。
- 雇用継続の努力義務: 助成金の支給は、原則として1年以上の継続雇用を前提としています。正当な理由なく短期間で離職や解雇があった場合、助成金が支給されない、または返還を求められる可能性があります。
- 提出書類の正確性: 提出する書類の内容(出勤状況、賃金など)に誤りがあると、審査に時間がかかったり、支給されない場合があります。正確な記録と確認が重要です。
- 他の助成金との関係: 障害者トライアル雇用助成金と組み合わせて活用するケースもありますが、重複して受給できない期間や要件があります。事前に他の関連助成金との併用可否や最適な利用順序を確認することが推奨されます。
- 最新情報の確認: 助成金制度は改正される可能性があります。申請前には必ず厚生労働省やハローワークの公式情報を確認し、最新の要件や手続きを把握してください。
他の関連制度との比較・併用
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、障がい者雇用に関連する他の助成金とどのように関係するのでしょうか。
- 障害者トライアル雇用助成金: これは、障がい者を試行的に雇用(トライアル雇用)する場合に支給される助成金です。特定求職者雇用開発助成金は、継続雇用を前提とした雇入れに対して支給されます。トライアル雇用を経て、引き続きその方を継続雇用(一般被保険者として)した場合、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)の対象となる可能性があります。つまり、トライアル雇用助成金で試行雇用期間を支援し、その後の継続雇用を特定求職者雇用開発助成金で支援するという流れが考えられます。ただし、それぞれの受給要件を満たす必要があります。
- 障害者介助等助成金、障害者職場環境改善助成金: これらは、雇用後の障がい者の就労を支援するための助成金です。特定求職者雇用開発助成金が「雇入れ」に対して支給されるのに対し、これらの助成金は「職場環境の整備」や「必要な介助」に対して支給されます。特定求職者雇用開発助成金の対象者を雇用した後に、これらの助成金を活用して定着支援を行うことが可能です。
このように、特定求職者雇用開発助成金は障がい者雇用の「入口」を支援する側面があり、他の助成金と組み合わせて活用することで、採用から定着まで一貫した支援体制を構築することが期待できます。
活用にあたっての具体的なポイント
労務担当者として特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を効果的に活用するためのポイントをいくつかご紹介します。
- 採用計画への組み込み: 障がい者雇用を計画する際、早い段階で本助成金の活用を検討し、ハローワーク等との連携を含めた採用プロセスを設計します。紹介ルートでの採用を意識することが重要です。
- 対象者の確認: 採用候補者が本助成金の対象となる障がい者に該当するか、事前にハローワークや専門機関に確認を行います。障がいの種類や程度、年齢によって支給額が異なるため、正確な情報把握が必要です。
- 雇用条件の検討: 継続雇用を前提とした雇用契約を締結する必要があります。賃金、労働時間、休日など、通常の労働者と同等以上の条件とすることが基本です。
- 職場環境整備との連携: 助成金は経済的支援ですが、雇用の成功には適切な職場環境が不可欠です。本助成金の対象者を雇用するにあたり、必要に応じて障害者職場環境改善助成金等の活用も視野に入れ、物理的な環境整備や配慮体制の構築を進めます。
- 丁寧な手続きと情報収集: 申請書類の作成は正確かつ丁寧に行います。また、制度改正情報や最新の要件については、労働局やハローワークのウェブサイト、説明会などを通じて常に最新の情報を収集するよう努めます。不明点は必ず担当窓口に問い合わせて確認します。
まとめ
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)は、ハローワーク等の紹介により障がい者を継続雇用する場合に、企業の採用負担を軽減し、雇用促進を後押しする重要な制度です。重度障がい者や精神障がい者を雇用する場合、また中小企業が雇用する場合に、より手厚い助成が受けられる設計となっています。
本助成金の活用は、単に経済的なメリットだけでなく、企業の社会的責任(CSR)を果たす一助となり、多様な人材を受け入れる組織文化の醸成にも寄与します。実務経験をお持ちの労務担当者の皆様には、この記事で解説した詳細な要件、申請方法、そして活用ポイントを参考に、ぜひ自社の障がい者雇用推進にこの助成金を有効に役立てていただきたいと思います。
制度の詳細は変更される可能性がありますので、申請にあたっては必ず管轄の労働局またはハローワークにご確認ください。貴社の障がい者雇用が、本助成金の活用を通じてさらに推進されることを願っております。