【労務担当者向け】採用ミスマッチを防ぐ!障がい者職場体験実習受け入れ支援制度の活用ガイド
はじめに:障がい者採用におけるミスマッチとその対策としての職場体験実習
障がい者の法定雇用率達成に向けて、多くの企業が採用活動に注力されています。しかしながら、採用後の早期離職といったミスマッチは、企業にとっても障がい者の方にとっても避けたい課題です。このミスマッチを防ぐ有効な手段の一つとして、職場体験実習が挙げられます。
職場体験実習は、障がいのある方が企業の実際の職場で一定期間業務を体験することで、自身の適性や職場環境への理解を深める機会です。企業側も、候補者のスキルや働く姿勢を実際に確認できるため、採用判断における重要な情報が得られます。この職場体験実習の受け入れにあたり、企業を支援するための国の制度が存在します。本記事では、この受け入れ支援制度の詳細と、労務担当者の皆様が活用を検討する上でのポイントについて解説いたします。
職場体験実習とは?目的と概要
職場体験実習は、就職を希望する障がい者が、ハローワークや障がい者就業・生活支援センター等の紹介により、企業の協力のもと実際の職場で短期間(多くは数日〜2週間程度)就業体験を行うものです。採用を前提としたものではなく、主に以下の目的で実施されます。
- 障がい者の目的:
- 実際の職場の雰囲気や業務内容を理解し、自身の適性や能力、課題を確認する。
- 働くことへの自信を深める。
- 企業選びの参考にし、就職後のミスマッチを防ぐ。
- 企業の目的:
- 障がい者の受け入れ経験を積み、社内理解を促進する。
- 候補者の実際の働く様子を確認し、採用判断の参考に供する。
- 障がい者雇用に向けた職場環境や業務内容の検討材料とする。
この職場体験実習は、あくまで「体験」であり、原則として雇用契約は結ばれません。労災保険等の適用関係や実習中の謝金等については、実施主体(ハローワーク等)が別途定める基準に基づきます。
受け入れ支援制度の概要と目的
障がい者職場体験実習の受け入れ支援制度は、主にハローワークが実施主体となり、企業が障がい者の方に職場体験の機会を提供することに対する協力金や謝金を支給するものです。この制度の目的は、企業が職場体験実習の受け入れを円滑に行えるよう支援し、障がい者の就職機会の創出およびミスマッチのない安定雇用の実現を図ることにあります。
企業は、この支援制度を活用することで、職場体験実習の受け入れにかかる一定の費用負担を軽減しながら、将来的な採用候補者との接点を持つことが可能となります。
制度の詳細な要件と対象
この受け入れ支援制度の具体的な要件や支援内容は、実施主体であるハローワークや地域、時期によって詳細が異なる場合があります。ここでは一般的な要件について解説します。
- 対象となる企業:
- 原則として、ハローワーク等の紹介により障がい者の職場体験実習を受け入れる企業が対象です。
- 労働保険に加入していることなどが要件となる場合があります。
- 過去に不正受給等がないことなどが条件となる場合があります。
- 受け入れ期間と条件:
- 実習期間は、多くの場合、数日〜2週間程度の範囲で設定されます。
- 実習内容は、企業の通常の業務の中から、障がい者の状況や希望、目的等を踏まえて設定されます。
- 安全に実習を行える環境を整備することが求められます。
- 実施計画の作成と承認:
- 企業は、受け入れにあたり、実習期間、実習内容、指導担当者等を明記した「職場体験実習実施計画」を作成し、ハローワーク等の承認を得る必要があります。
- 対象となる障がい者:
- 原則として、ハローワーク等に求職登録している障がい者の方が対象となります。
- 職場体験実習を通じて就職意欲の向上や適性確認を図ることが見込まれる方。
受け入れ企業への具体的な支援内容
企業が職場体験実習を受け入れた際に支給される支援内容は、主に以下のものが挙げられます。
- 受入謝金(協力金):
- 実習生一人を受け入れるごとに、一定の謝金や協力金が支給されます。支給額は一日あたり数千円程度が一般的ですが、地域や制度内容によって異なります。
- 支給要件として、計画通りに実習を完了したこと、実習状況の報告を行うことなどが求められます。
- 実習中の保険関係:
- 実習中の不測の事故に備え、多くの場合、実施主体(ハローワーク等)が傷害保険や賠償責任保険に加入するなど、実習生側の保険を負担します。企業側での特別な保険加入が不要なケースが多いですが、詳細は事前に確認が必要です。
- その他費用負担について:
- 実習生の通勤費や実習中の昼食代等は、原則として実施主体または実習生自身が負担し、企業側の負担は発生しないケースが多いです。ただし、これも個別の取り決めによります。
申請方法と手続きの流れ
職場体験実習の受け入れ支援制度を利用するための一般的な申請方法と手続きの流れは以下の通りです。
- ハローワーク等への相談:
- まず、企業の所在地を管轄するハローワークの専門窓口(障がい者専門部門)や、連携している障がい者就業・生活支援センターに相談します。職場体験実習の受け入れに関心がある旨を伝えます。
- 実習候補者の紹介:
- 相談後、ハローワーク等から企業の受け入れ条件に合う求職中の障がい者の方が紹介されます。
- 面談・職場見学:
- 実習に先立ち、企業と実習候補者との間で事前の面談や職場見学が行われることが一般的です。双方の意向を確認し、実習の可否を判断します。
- 実習計画の作成・提出:
- 受け入れが決定した場合、企業はハローワーク等と連携し、「職場体験実習実施計画」を作成します。作成した計画書をハローワーク等に提出し、承認を得ます。
- 職場体験実習の実施:
- 承認された計画に基づき、実際に職場体験実習を実施します。実習中は、事前に定めた指導担当者が実習生のフォローを行います。
- 実習状況の報告と謝金の申請:
- 実習期間終了後、企業はハローワーク等に対し、実習状況や実習生の様子等について報告書を提出します。報告後、所定の手続きにより、受入謝金(協力金)の申請を行います。
- 謝金の受領:
- 申請に基づき、企業指定の口座に受入謝金が振り込まれます。
受け入れ企業から見たメリットとデメリット・注意点
メリット
- ミスマッチの防止: 候補者の実際の働きぶりや適性を直接確認できるため、採用後のミスマッチリスクを大幅に軽減できます。
- 採用候補者の発掘: 就職意欲の高い障がい者の方との接点を持つことができ、将来的な採用に繋がる可能性があります。
- 受け入れ体制の準備・検証: 実際に障がい者を受け入れることで、社内の体制や環境整備の必要性を具体的に把握できます。
- 従業員の理解促進: 受け入れ担当者や現場の従業員が障がい特性や必要な配慮について学び、理解を深める機会となります。
- 企業の社会貢献: 障がい者の就労支援に協力することは、企業のCSR活動としても評価されます。
- 費用負担の軽減: 受け入れ支援制度により、受け入れにかかる一定の経済的負担が軽減されます。
デメリット・注意点
- 受け入れ体制の準備負担: 事前の計画作成や、実習中の指導・フォロー体制の構築に一定の時間と労力がかかります。
- 現場のフォロー負担: 実習生への指示や見守りなど、現場の担当者の負担が増える可能性があります。
- 必ずしも採用に繋がらない: 職場体験実習は採用を保証するものではありません。良い候補者であっても、企業の状況や採用計画によっては採用に至らない場合もあります。
- 対象者の限定性: 制度の対象となるのは、ハローワーク等を通じて紹介された求職中の障がい者の方です。
- 制度内容の確認: 支援内容や手続きは地域や実施主体によって異なるため、事前に詳細をしっかり確認する必要があります。
職場体験実習を成功させるためのポイント
職場体験実習を企業にとって有益な機会とし、実習生にも良い経験を提供するためには、以下の点を意識することが重要です。
- 明確な目的設定: 何のために実習を受け入れるのか、どのような情報を得たいのかといった目的を明確にします。
- 具体的な実施計画: 実習期間中のスケジュール、担当業務、指導担当者、休憩時間、緊急時の対応などを具体的に計画し、関係者間で共有します。実習生にも事前に内容を分かりやすく伝えます。
- 適切な業務の選定: 実習生の障がい特性や希望を踏まえ、安全かつ達成感を得られるような業務を選定します。難しすぎる、あるいは簡単すぎる業務は避けるべきです。
- 現場との連携強化: 受け入れ現場の担当者と事前に十分に連携を取り、実習の目的や実習生の特性、必要な配慮について情報共有を行います。
- 丁寧な指導とフィードバック: 実習中は定期的に実習生とコミュニケーションを取り、業務の進捗確認や困りごとのヒアリングを行います。実習終了後には、実習生に対してポジティブな点や今後の課題について具体的にフィードバックを行います。
- ハローワーク等との連携: 実習中もハローワークの担当者等と適宜情報交換を行い、実習が円滑に進むよう連携します。
他の制度との比較:トライアル雇用など
職場体験実習と類似した制度として、障害者トライアル雇用助成金が知られています。両者の主な違いは以下の通りです。
- 目的:
- 職場体験実習:就職前の適性確認、職場理解促進、就職意欲の向上。雇用を前提としない「体験」。
- トライアル雇用:障がい者を原則3ヶ月間の試行雇用として受け入れ、適性や能力を見極め、常用雇用へ移行することを目指す。雇用契約を伴う「試行雇用」。
- 期間:
- 職場体験実習:数日~2週間程度(短期間)。
- トライアル雇用:原則3ヶ月間。
- 雇用契約:
- 職場体験実習:原則なし。
- トライアル雇用:あり(有期雇用)。
- 企業への支援:
- 職場体験実習:受け入れに対する協力金・謝金。
- トライアル雇用:トライアル雇用助成金(対象者の賃金に対する助成)。
- 費用負担(実習生側):
- 職場体験実習:賃金は発生しない(謝金等がある場合あり)。
- トライアル雇用:通常の労働者と同様に賃金が発生する。
職場体験実習は、トライアル雇用よりもさらにライトな受け入れ機会と言えます。いきなりトライアル雇用として雇用するのはハードルが高いと感じる場合でも、まずは職場体験実習から検討することで、障がい者雇用の第一歩を踏み出しやすくなります。
まとめ:職場体験実習支援制度の積極的な活用を
障がい者雇用におけるミスマッチは、企業と障がい者双方にとって大きな課題です。この課題解決に有効な手段の一つが、職場体験実習です。職場体験実習受け入れ支援制度を活用することで、企業は負担を軽減しながら、採用候補者の適性をじっくり見極め、より良い雇用に繋げる機会を得ることができます。
すでに障がい者雇用を進めている企業様にとっても、新たな職務開発や多様な障がい特性を持つ方の受け入れ可能性を探る上で、職場体験実習は有効な手段となり得ます。ハローワーク等の専門機関と密に連携し、企業の状況に合わせた職場体験実習を企画・実施することで、法定雇用率の達成だけでなく、真に定着する障がい者雇用を実現するための確かな一歩となるでしょう。ぜひ、この制度の活用をご検討ください。