企業の障がい者雇用支援制度ガイド

【労務担当者向け】法定雇用義務の対象企業となる範囲と計算方法:グループ雇用特例と関連制度活用ガイド

Tags: 法定雇用義務, 常用雇用労働者, グループ雇用特例, 障害者雇用, 労務管理

はじめに:法定雇用義務の対象企業であることの重要性

障がい者雇用促進法に基づき、一定規模以上の企業には障がい者を雇用する義務が課されています。この「法定雇用義務」は、障がい者の職業安定と社会参加を促進するための重要な制度であり、対象となる企業は法定雇用率以上の障がい者を雇用する努力義務を負います。

労務担当者の皆様にとっては、自社がこの法定雇用義務の対象となるのか、またその場合の常用雇用労働者数と障がい者の雇用人数をどのように正確に計算するのかを理解することが、法令遵守、障害者雇用調整金・納付金制度への対応、そして適切な雇用支援制度の活用において不可欠です。

本記事では、法定雇用義務の対象となる企業の範囲、常用雇用労働者数の具体的な計算方法、企業グループ全体での雇用を促進する「グループ雇用特例制度」、そしてこれらの制度に関連する支援制度の活用ポイントについて、労務担当者の皆様の実務に役立つ情報を提供いたします。

法定雇用義務の対象となる企業の範囲

法定雇用義務は、事業主(企業)単位で課せられます。対象となるのは、常時雇用する労働者数が一定数以上である企業です。

現行法では、この「一定数」は43.5人以上と定められています(法定雇用率2.3%の場合。計算式:43.478... → 43.5人以上)。 つまり、常時雇用する労働者が43.5人以上の企業は、原則として障がい者雇用に関する法定雇用義務の対象となります。

この「常時雇用する労働者」の正確な定義と計算方法が、自社が対象となるか否かを判断する上での重要なポイントとなります。

常用雇用労働者数の正確な計算方法

法定雇用率や雇用義務の対象判定における「常時雇用する労働者」は、単に正社員の数を数えるだけではありません。以下のルールに基づいて、企業全体の労働者数を正確に算定する必要があります。

算定の対象となる労働者

原則として、以下のいずれかに該当する労働者が「常時雇用する労働者」に含まれます。

上記に該当する労働者のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上の者が算定の対象となります。

常用雇用労働者数の具体的な計算

  1. 週所定労働時間30時間以上の労働者:
    • 週の所定労働時間が30時間以上の労働者は、1人をもって1人として算定します。これには一般的に正社員が含まれます。
  2. 週所定労働時間20時間以上30時間未満の労働者(短時間労働者):
    • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は、1人をもって0.5人として算定します。パートタイマーやアルバイトなどがこれに該当する場合があります。

算定上の注意点

例:週30時間以上の労働者 50名、週25時間の労働者 10名 の企業の場合 常用雇用労働者数 = 50人 × 1 + 10人 × 0.5 = 50 + 5 = 55人 この企業は常用雇用労働者数が55人であるため、法定雇用義務の対象となります。

グループ雇用特例制度の活用

一定の要件を満たす企業グループについては、グループ全体で障がい者雇用率を算定し、特例子会社や関係会社で雇用する障がい者を親会社の雇用率に算入できる「グループ雇用特例制度」があります。これは、企業グループ全体で障がい者雇用を促進し、より柔軟な雇用形態を可能にするための制度です。

制度の目的と概要

グループ雇用特例制度は、親会社がその子会社や関係会社と一体となって障がい者雇用に取り組む場合に、企業グループ全体の雇用状況を評価することで、障がい者の雇用機会拡大を図ることを目的としています。特に、障がい者の働く場の選択肢を増やし、個々の障がい特性や能力に応じた働き方を実現しやすくする効果が期待できます。

対象となる企業グループと要件

グループ雇用特例の適用を受けるためには、以下の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。

  1. 親会社と子会社・関係会社の関係性: 親会社が子会社または関係会社の発行済株式総数(または出資総額)の50%超を保有しているなど、一定の支配関係があること。
  2. 障がい者の雇用の状況: 特例の対象となる子会社・関係会社における障がい者雇用が適切に行われており、障がい者の職業生活の安定が図られていると認められること。
  3. 雇用管理体制の一体性: 親会社と子会社・関係会社の間で、障がい者の採用、配置、教育訓練、人事評価、賃金制度などの雇用管理が一体的に行われていると認められること。
  4. 申請と認可: 事前に厚生労働大臣に申請し、認可を受ける必要があります。

メリットとデメリット

メリット:

デメリット:

申請方法と手続き

グループ雇用特例の申請は、親会社が厚生労働大臣宛てに行います。申請にあたっては、グループ内の企業構成、各社の雇用状況、障がい者の雇用管理体制の詳細を示す書類の提出が必要です。具体的な手続きや必要書類については、管轄のハローワークや独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の都道府県支部等に相談することをお勧めします。

法定雇用義務に関連する支援制度の活用

自社が法定雇用義務の対象となった場合、あるいは今後対象となる可能性がある場合、障がい者の雇用促進や雇用環境の整備のために様々な国の支援制度を活用できます。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

障がい者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給される助成金です。対象労働者の障がいの種類や程度、企業の規模によって支給額や支給期間が異なります。 これは、新たに障がい者を雇用する際の企業の経済的負担を軽減し、雇用を促進するための代表的な助成金です。対象企業の範囲となった企業が初めて障がい者雇用に取り組む際などに特に有効です。

障害者雇用納付金制度に基づく助成金

法定雇用率未達成企業から徴収される納付金を財源として、障がい者の雇用を促進し、職業の安定を図るための様々な助成金が支給されます。法定雇用義務の対象となる企業規模(常時雇用労働者100人超)の企業が主に利用できる制度ですが、中小企業向けの特例もあります。

自社が法定雇用義務の対象となる規模であれば、これらの納付金制度に基づく助成金の活用も視野に入れるべきです。特に、既に障がい者雇用に取り組んでいる企業にとっては、定着支援や更なる環境改善に役立つ制度が多くあります。

まとめ:正確な状況把握と計画的な制度活用を

法定雇用義務の対象となる企業の範囲と常用雇用労働者数の正確な計算は、労務担当者の皆様にとって非常に重要な業務です。自社の規模を正しく把握し、法定雇用義務の有無、雇用すべき障がい者の数を算定することは、法令遵守の第一歩となります。

また、企業グループ全体での障がい者雇用を推進したい場合は、グループ雇用特例制度が有効な選択肢となり得ます。申請には一定の要件と手続きが必要ですが、グループ全体の雇用率達成や障がい者の多様な働き方の実現に寄与します。

さらに、法定雇用義務の対象となった企業は、特定求職者雇用開発助成金や障害者雇用納付金制度に基づく各種助成金を活用することで、障がい者の新規雇用、定着促進、職場環境改善等を計画的に進めることができます。

ご自身の企業が対象となるか不明な場合や、計算方法、グループ雇用特例の詳細、利用可能な支援制度等について疑問がある場合は、管轄のハローワークやJEED都道府県支部等の専門機関に相談することをお勧めします。正確な情報を基に、障がい者雇用の推進に向けた最適な戦略を立てていただければ幸いです。