【労務担当者向け】障害者雇用納付金を「雇用投資」に変える!納付額削減に繋がる国の助成金・支援制度活用ガイド
障害者雇用納付金制度の理解と企業が直面する課題
企業の社会的責任、そして法定雇用率の達成義務という観点から、障がい者雇用への関心は高まっています。特に従業員100名を超える企業においては、法定雇用率の達成が義務付けられており、未達成の場合には「障害者雇用納付金」の納付が必要となります。この納付金は、法定雇用率を達成している企業への調整金や報奨金の財源となるほか、障がい者雇用促進のための各種助成金・支援事業にも充てられています。
多くの企業にとって、障害者雇用納付金は負担すべきコストと捉えられがちです。しかし、この制度は、障がい者雇用を進めるための「投資」とも捉えられます。納付金の額は雇用している障がい者の人数によって変動するため、雇用を促進することで納付額を削減できるだけでなく、納付金の仕組みを活用して得られる様々な助成金や支援制度を活用することで、よりスムーズかつ効果的に雇用を進めることが可能になります。
本稿では、障害者雇用納付金を支払う企業が、どのように納付金をコストではなく雇用促進への投資と捉え直し、具体的な国の助成金・支援制度を活用して納付額削減とより良い雇用環境の実現を両立させるかについて、実務担当者の方々が活用できる情報を網羅的に解説いたします。
障害者雇用納付金制度の概要と企業への影響
障害者雇用納付金制度は、障がい者雇用について企業間の経済的負担を調整し、障がい者雇用を促進することを目的としています。
制度の対象企業と納付金の算定
- 対象: 常時雇用する従業員数が100名を超える企業が対象となります。
- 算定方法: 法定雇用率(現在2.5%)に対して不足する障がい者の人数に、1人あたり月額5万円(短時間労働者は3万円)を乗じて算出されます。
- (法定雇用率に基づく算定雇用障がい者数 - 実際の雇用障がい者数)× 5万円(または3万円)× 12ヶ月
- 雇用障がい者数の算定には、重度障がい者のダブルカウントや短時間労働者の算定方法など、詳細なルールが存在します。
納付金の支払いは、法定雇用義務を履行できていない企業にとっては避けられない負担です。しかし、この負担を軽減する唯一の方法は、法定雇用率を達成するか、それに近づけるために障がい者の雇用を進めることです。そして、雇用を進める過程で活用できる国の制度が多数存在します。
納付額削減(=雇用促進)に直結する主要な助成金・支援制度
障害者雇用納付金を減らすことは、すなわち雇用人数を増やすことと同義です。ここでは、新規雇用や雇用継続を直接的に支援し、結果として納付額削減に繋がる主要な助成金・支援制度を解説します。
1. 特定求職者雇用開発助成金
新規で障がい者を雇用した企業に対して支給される助成金であり、雇用促進に最も直接的に寄与します。
- 目的: 就職が特に困難な求職者(障がい者を含む)をハローワーク等の紹介により継続して雇用する企業に対し、賃金の一部を助成することで、これらの対象者の雇用機会の拡大を図る。
- 対象となる企業: ハローワーク等の紹介により、対象となる労働者(障がい者を含む)を継続して雇用する労働者(雇用保険の被保険者)として雇い入れる事業主。
- 対象となる労働者: 身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、発達障害者、難治性疾患患者など、障がいの種類や程度に応じたコースがあります(特定就職困難者コース、発達障害者・難治性疾患患者等コースなど)。各コースで対象となる障がいやその他の要件が異なります。
- 支給額・期間: 対象労働者の障がい種別、雇用形態(フルタイム/短時間)、企業の規模(中小企業以外/中小企業)によって異なります。
- 例:特定就職困難者コース(重度身体・知的、精神障がい者等)の場合、中小企業以外は最大120万円(1年)、中小企業は最大240万円(2年)などが支給されます(期間や支給回数、金額は対象者やコースにより細かく設定されています)。
- 申請方法: 労働者の雇入れ日の翌日から2ヶ月以内など、申請期間が定められています。ハローワーク等で対象労働者の紹介を受け、必要書類を提出します。
- メリット: 新規雇用にかかる初期費用や一定期間の賃金負担を軽減できるため、雇用へのハードルが下がります。
- デメリット: 雇用後、一定期間(原則2年)の継続雇用義務があります。また、対象となる労働者の要件が細かく定められています。
- 活用ポイント: 自社が雇用したい障がい者の種別や雇用形態に合ったコースがあるか、事前にハローワーク等で確認することが重要です。計画的な採用活動に組み込むことで、効果的に活用できます。
2. 障害者トライアル雇用助成金
障がい者の適性や業務遂行能力を見極め、企業と障がい者の相互理解を深めるための試行雇用(原則3ヶ月間)を支援する助成金です。正規雇用への移行を前提とした制度です。
- 目的: 障がい者の試行的雇用を通じて、その適性や能力を見極め、その後の常用雇用への移行を図る。
- 対象となる企業: ハローワーク等の紹介により、対象となる障がい者を一定期間(原則3ヶ月)のトライアル雇用として雇い入れる事業主。
- 対象となる労働者: 障がい者手帳の有無にかかわらず、就職を希望しており、紹介日時点で就労経験のない方や、過去の職場定着率が低い方などが対象となります。
- 支給額・期間: 対象者1人あたり、原則3ヶ月間、月額最大4万円(精神障がい者の場合は月額最大8万円が最長3ヶ月、その後月額最大4万円が最長3ヶ月の最大6ヶ月)。
- 申請方法: トライアル雇用開始日の前日までに、ハローワーク等に計画書を提出し、認定を受ける必要があります。
- メリット: 採用におけるミスマッチのリスクを軽減できます。障がい者の職場適応を支援する期間として活用できます。
- デメリット: 期間が限られています。常用雇用への移行が前提となりますが、必ずしも移行できるとは限りません。
- 活用ポイント: 採用選考の一部としてトライアル雇用を位置づけ、受け入れ体制を事前に準備しておくことが重要です。
3. 障害者雇用安定助成金(合理的配慮等支援助成金など)
障がい者が職場で安定して働き続けるために必要な合理的配慮の提供や、職場環境の整備を支援する助成金です。直接的な雇用促進ではないものの、定着率向上は納付額削減に間接的に寄与します。
- 目的: 障がい者の職場適応や継続雇用を図るため、職場環境の改善、介助者の配置など、障がい特性に応じた適切な配慮に必要な費用の一部を助成する。
- 対象となる企業: 障がい者を雇用する事業主。
- 対象となる取り組み: 障がい者のために行う機械・設備の購入・設置・整備、施設の設置・整備、通勤を容易にするための措置、職場への適応や能力向上を図るためのきめ細やかな指導、職場介助者の配置など、多岐にわたります。これらの措置内容に応じて、「合理的配慮等支援助成金」「障害者介助等助成金」といった個別の助成金に分かれています。
- 支給額・期間: 措置の種類、費用、企業の規模によって異なります。設備の購入費用の一定割合(例:中小企業以外は4分の3、中小企業は5分の4など)、介助者の人件費の一部などが支給されます。
- 申請方法: 措置を実施する前に計画書を提出し、認定を受ける必要がある場合が多いです。実施後に申請するケースもあります。詳細な手続きは助成金の種類によって異なります。
- メリット: 合理的配慮の提供や職場環境整備にかかる費用負担が軽減され、障がい者が働きやすい環境を整備し、定着率向上に繋がります。
- デメリット: 助成対象となる措置や費用に制限があります。すべての合理的配慮が助成対象となるわけではありません。
- 活用ポイント: 雇用する障がい者の障がい特性やニーズを正確に把握し、必要な合理的配慮や環境整備の内容を具体的に計画した上で、申請可能な助成金がないか検討することが重要です。
納付金制度から受けられる間接的な支援
障害者雇用納付金制度は、助成金の支給だけでなく、雇用管理に関する様々な支援事業の財源ともなっています。これらは直接的な金銭的補助ではないものの、企業が障がい者雇用を円滑に進める上で非常に有益な「投資」と捉えることができます。
- 障害者雇用管理アドバイザーによる相談・助言: 専門家による、雇用計画の策定、職場環境整備、雇用管理等に関する無料の相談・助言が受けられます。
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業: 障がい者が職場に早期に適応できるよう、事業所にジョブコーチを派遣し、本人・事業主・職場の従業員に対して、障害特性を踏まえた専門的な支援を行います。これは直接的な助成金ではなく、支援そのものが提供されるサービスです。
- 障害者就業・生活支援センター: 障がい者の身近な地域において、就業面及び生活面の一体的な相談・支援を提供します。企業からの相談も受け付けており、雇用管理や定着に関する課題についてアドバイスを得られます。
- 各種セミナー・研修: 障がい者雇用に関する基礎知識、雇用管理、合理的配慮等に関するセミナーや研修が開催されており、担当者の知識・スキル向上に役立ちます。
これらの支援事業は、特に初めて障がい者雇用に取り組む企業や、雇用拡大・定着に課題を感じている企業にとって、非常に価値の高いサポートとなります。これらを積極的に活用することで、より効果的な雇用戦略を構築し、結果的に納付金負担の軽減に繋げることができます。
企業状況に応じた制度の選び方・組み合わせ戦略
納付額削減という目標に向けて、どの助成金・支援制度を活用するかは、企業の現在の障がい者雇用状況や今後の計画によって異なります。
-
新規雇用を検討している段階:
- まずは特定求職者雇用開発助成金の対象となる障がい者を積極的に採用候補とすることで、初期費用の負担を軽減できます。
- 採用後のミスマッチが懸念される場合は、障害者トライアル雇用助成金を活用し、試行期間を設けることを検討します。
- これらの制度を活用しつつ、ハローワークや障害者就業・生活支援センターに相談し、人材紹介や雇用に関するアドバイスを受けることも有効です。
-
雇用はしているが、定着率に課題がある段階:
- 定着支援に重点を置きます。障がい特性に応じた合理的配慮等支援助成金や障害者介助等助成金を活用し、働きやすい職場環境を整備します。
- 職場への適応が難しい障がい者に対しては、ジョブコーチ支援事業の活用を検討します。
- 障害者就業・生活支援センターに相談し、定着に関する専門的なアドバイスや、障がい者本人への生活面も含めた支援を依頼することも重要です。
-
納付額を大幅に削減したい(=大幅な雇用拡大を目指す)段階:
- 複数の助成金・支援制度を組み合わせる戦略が必要です。
- 特定求職者雇用開発助成金を活用した計画的な新規採用を進めつつ、雇用した障がい者が安定して働けるように障害者雇用安定助成金等による環境整備や、ジョブコーチ支援による定着支援を並行して行います。
- 社内に障がい者雇用推進のための体制を整備し、障害者雇用管理アドバイザー等の外部専門家の助言も継続的に活用します。
- 計画的な採用活動と並行して、障害者法定雇用率の正しい算定方法を再度確認し、重度障がい者や短時間労働者の算定特例などを最大限に活用できないかも検討します。
制度活用における注意点と成功のポイント
助成金・支援制度を効果的に活用し、納付額削減と雇用促進を成功させるためには、いくつかの注意点とポイントがあります。
- 最新情報の把握: 助成金制度は改正されることがあります。常に厚生労働省やハローワーク等のウェブサイトで最新情報を確認することが不可欠です。
- 申請要件・手続きの正確な理解: 各制度には詳細な要件や申請期間、必要書類が定められています。不明な点は必ず事前に問い合わせ、不備がないように手続きを進めることが重要です。
- 計画的な活用: 助成金は、あくまで雇用促進や環境整備のための支援策です。「助成金がもらえるから雇用する」というスタンスではなく、企業の雇用戦略の一部として計画的に活用することが成功の鍵です。
- 目的の明確化: 何のためにその制度を利用するのか(新規雇用、定着、環境整備など)、目的を明確にすることで、最適な制度を選び、効果的な活用に繋がります。
- 専門機関との連携: ハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの専門機関は、制度に関する最新情報、申請支援、人材紹介、定着支援など、企業が障がい者雇用を進める上で非常に頼りになる存在です。積極的に連携を取りましょう。
- 社内体制の整備と理解促進: 障がい者雇用は労務部門だけで完結するものではありません。現場の部署や従業員の理解、協力が不可欠です。社内での理解を深めるための啓発活動や、担当者間の連携体制の構築も、制度活用と同じくらい重要です。
まとめ:納付金を「雇用投資」として活かす
障害者雇用納付金は、法定雇用義務を履行できていない企業にとって負担となりますが、この制度を深く理解し、関連する国の助成金や支援制度を戦略的に活用することで、負担を軽減しつつ、企業の障がい者雇用を前進させることができます。
納付金を単なるコストではなく、障がい者雇用という社会的意義のある取り組み、そして多様な人材活用による企業力向上への「投資」と捉え直すことが重要です。特定求職者雇用開発助成金による新規雇用の促進、障害者トライアル雇用助成金によるミスマッチリスクの軽減、障害者雇用安定助成金等による定着支援や環境整備など、様々な制度を自社の状況に合わせて賢く選び、組み合わせることで、納付額の削減とより安定した障がい者雇用の実現を目指していただければ幸いです。
企業の障がい者雇用がさらに進展し、障がいのある方がその能力を存分に発揮できる社会となることを願っております。本稿が、貴社の障がい者雇用戦略の一助となれば幸いです。