企業の障がい者雇用支援制度ガイド

【労務担当者向け】障害者雇用納付金を「雇用投資」に変える!納付額削減に繋がる国の助成金・支援制度活用ガイド

Tags: 障害者雇用, 障害者雇用納付金, 助成金, 支援制度, 法定雇用率

障害者雇用納付金制度の理解と企業が直面する課題

企業の社会的責任、そして法定雇用率の達成義務という観点から、障がい者雇用への関心は高まっています。特に従業員100名を超える企業においては、法定雇用率の達成が義務付けられており、未達成の場合には「障害者雇用納付金」の納付が必要となります。この納付金は、法定雇用率を達成している企業への調整金や報奨金の財源となるほか、障がい者雇用促進のための各種助成金・支援事業にも充てられています。

多くの企業にとって、障害者雇用納付金は負担すべきコストと捉えられがちです。しかし、この制度は、障がい者雇用を進めるための「投資」とも捉えられます。納付金の額は雇用している障がい者の人数によって変動するため、雇用を促進することで納付額を削減できるだけでなく、納付金の仕組みを活用して得られる様々な助成金や支援制度を活用することで、よりスムーズかつ効果的に雇用を進めることが可能になります。

本稿では、障害者雇用納付金を支払う企業が、どのように納付金をコストではなく雇用促進への投資と捉え直し、具体的な国の助成金・支援制度を活用して納付額削減とより良い雇用環境の実現を両立させるかについて、実務担当者の方々が活用できる情報を網羅的に解説いたします。

障害者雇用納付金制度の概要と企業への影響

障害者雇用納付金制度は、障がい者雇用について企業間の経済的負担を調整し、障がい者雇用を促進することを目的としています。

制度の対象企業と納付金の算定

納付金の支払いは、法定雇用義務を履行できていない企業にとっては避けられない負担です。しかし、この負担を軽減する唯一の方法は、法定雇用率を達成するか、それに近づけるために障がい者の雇用を進めることです。そして、雇用を進める過程で活用できる国の制度が多数存在します。

納付額削減(=雇用促進)に直結する主要な助成金・支援制度

障害者雇用納付金を減らすことは、すなわち雇用人数を増やすことと同義です。ここでは、新規雇用や雇用継続を直接的に支援し、結果として納付額削減に繋がる主要な助成金・支援制度を解説します。

1. 特定求職者雇用開発助成金

新規で障がい者を雇用した企業に対して支給される助成金であり、雇用促進に最も直接的に寄与します。

2. 障害者トライアル雇用助成金

障がい者の適性や業務遂行能力を見極め、企業と障がい者の相互理解を深めるための試行雇用(原則3ヶ月間)を支援する助成金です。正規雇用への移行を前提とした制度です。

3. 障害者雇用安定助成金(合理的配慮等支援助成金など)

障がい者が職場で安定して働き続けるために必要な合理的配慮の提供や、職場環境の整備を支援する助成金です。直接的な雇用促進ではないものの、定着率向上は納付額削減に間接的に寄与します。

納付金制度から受けられる間接的な支援

障害者雇用納付金制度は、助成金の支給だけでなく、雇用管理に関する様々な支援事業の財源ともなっています。これらは直接的な金銭的補助ではないものの、企業が障がい者雇用を円滑に進める上で非常に有益な「投資」と捉えることができます。

これらの支援事業は、特に初めて障がい者雇用に取り組む企業や、雇用拡大・定着に課題を感じている企業にとって、非常に価値の高いサポートとなります。これらを積極的に活用することで、より効果的な雇用戦略を構築し、結果的に納付金負担の軽減に繋げることができます。

企業状況に応じた制度の選び方・組み合わせ戦略

納付額削減という目標に向けて、どの助成金・支援制度を活用するかは、企業の現在の障がい者雇用状況や今後の計画によって異なります。

  1. 新規雇用を検討している段階:

    • まずは特定求職者雇用開発助成金の対象となる障がい者を積極的に採用候補とすることで、初期費用の負担を軽減できます。
    • 採用後のミスマッチが懸念される場合は、障害者トライアル雇用助成金を活用し、試行期間を設けることを検討します。
    • これらの制度を活用しつつ、ハローワークや障害者就業・生活支援センターに相談し、人材紹介や雇用に関するアドバイスを受けることも有効です。
  2. 雇用はしているが、定着率に課題がある段階:

    • 定着支援に重点を置きます。障がい特性に応じた合理的配慮等支援助成金障害者介助等助成金を活用し、働きやすい職場環境を整備します。
    • 職場への適応が難しい障がい者に対しては、ジョブコーチ支援事業の活用を検討します。
    • 障害者就業・生活支援センターに相談し、定着に関する専門的なアドバイスや、障がい者本人への生活面も含めた支援を依頼することも重要です。
  3. 納付額を大幅に削減したい(=大幅な雇用拡大を目指す)段階:

    • 複数の助成金・支援制度を組み合わせる戦略が必要です。
    • 特定求職者雇用開発助成金を活用した計画的な新規採用を進めつつ、雇用した障がい者が安定して働けるように障害者雇用安定助成金等による環境整備や、ジョブコーチ支援による定着支援を並行して行います。
    • 社内に障がい者雇用推進のための体制を整備し、障害者雇用管理アドバイザー等の外部専門家の助言も継続的に活用します。
    • 計画的な採用活動と並行して、障害者法定雇用率の正しい算定方法を再度確認し、重度障がい者や短時間労働者の算定特例などを最大限に活用できないかも検討します。

制度活用における注意点と成功のポイント

助成金・支援制度を効果的に活用し、納付額削減と雇用促進を成功させるためには、いくつかの注意点とポイントがあります。

まとめ:納付金を「雇用投資」として活かす

障害者雇用納付金は、法定雇用義務を履行できていない企業にとって負担となりますが、この制度を深く理解し、関連する国の助成金や支援制度を戦略的に活用することで、負担を軽減しつつ、企業の障がい者雇用を前進させることができます。

納付金を単なるコストではなく、障がい者雇用という社会的意義のある取り組み、そして多様な人材活用による企業力向上への「投資」と捉え直すことが重要です。特定求職者雇用開発助成金による新規雇用の促進、障害者トライアル雇用助成金によるミスマッチリスクの軽減、障害者雇用安定助成金等による定着支援や環境整備など、様々な制度を自社の状況に合わせて賢く選び、組み合わせることで、納付額の削減とより安定した障がい者雇用の実現を目指していただければ幸いです。

企業の障がい者雇用がさらに進展し、障がいのある方がその能力を存分に発揮できる社会となることを願っております。本稿が、貴社の障がい者雇用戦略の一助となれば幸いです。