【労務担当者向け】法定雇用率達成企業必見!障害者雇用調整金の受給要件と申請実務ガイド
はじめに:障害者雇用調整金とは
法定雇用率を達成している企業にとって、障害者雇用調整金は障がい者雇用推進へのインセンティブとなる重要な制度です。この調整金は、法定雇用率を一定数以上達成し、雇用人数が法定雇用率の算定基準となる人数を超過した場合に支給されます。
企業の労務担当者の皆様は、法定雇用率の達成に向けた取り組みだけでなく、達成した際のメリットについても正確に理解しておくことが重要です。本稿では、障害者雇用調整金の制度概要から、詳細な受給要件、申請手続き、具体的な計算方法、そして受給に向けた実務上のポイントまで、企業が調整金を活用するために必要な情報を提供いたします。
障害者雇用調整金の目的と概要
障害者雇用調整金は、障がい者雇用促進法に基づき、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)から支給される制度です。その主な目的は、常用雇用労働者数が100人を超える企業において、法定雇用率を超えて障がい者を雇用している事業主に対し、経済的な調整を行うことで、障がい者の雇用水準を高めることにあります。
この制度は、障がい者を多く雇用する企業の経済的負担を調整し、更なる雇用促進を奨励する役割を担っています。法定雇用率を達成している企業にとっては、雇用に関するコスト負担の一部を補填し、障がい者雇用への継続的な投資を可能にする財源となり得ます。
障害者雇用調整金の詳細な受給要件
障害者雇用調整金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
1. 対象となる企業規模
常用雇用労働者数が100人を超える事業主が対象です。常用雇用労働者数とは、雇用保険の被保険者のうち、短時間労働者以外の者を指します。ただし、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者も一定の基準で算入されるため、正確なカウントが必要です。
2. 法定雇用率の達成
対象年の各月における障がい者の実雇用率が法定雇用率を超過している必要があります。そして、その超過分を年間の雇用数として算定し、一定数以上の障がい者を法定雇用率分を超えて雇用していることが要件となります。
3. 調整金の算定期間
調整金は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間の雇用状況に基づいて算定されます。この期間を「算定基礎期間」と呼びます。
4. 算定対象となる障がい者
調整金の算定対象となる障がい者は、以下のいずれかに該当し、算定基礎期間において継続して雇用されている常用労働者です。
- 身体障がい者
- 知的障がい者
- 精神障がい者
これらの障がい者の算定方法は、障がいの種類や程度、労働時間によって異なります。
- 身体障がい者・知的障がい者(重度以外): 週所定労働時間30時間以上で1人、20時間以上30時間未満で0.5人としてカウントします。
- 重度身体障がい者・重度知的障がい者: 週所定労働時間30時間以上で2人、20時間以上30時間未満で1人としてカウントします。
- 精神障がい者:
- 週所定労働時間30時間以上の場合、原則1人としてカウントします。
- 週所定労働時間20時間以上30時間未満の場合、雇用から3年間は1人としてカウントされ、それ以降は0.5人としてカウントされます。(ただし、精神障がい者の短時間労働者の算定特例は時限措置であり、最新の情報はJEEDの公式サイトで確認が必要です。)
障がい者のカウントにあたっては、障がい者手帳等の確認だけでなく、雇用保険の資格取得状況なども正確に把握しておく必要があります。
5. 超過雇用数の計算
算定基礎期間における年間を通しての常用雇用労働者数と障がい者雇用数を集計し、法定雇用率に基づいて算出される「法定雇用障害者数」と比較します。年間の常用雇用労働者数の月ごとの合計を12で割った数(小数点以下切り捨て)に、法定雇用率を乗じて計算される法定雇用障害者数(小数点以下切り捨て)を基準とします。
年間で雇用した障がい者の総数(人数×カウント数×月数)から、法定雇用障害者数を計算した際に使用した雇用月数を乗じた数を差し引いた数が、調整金の対象となる「超過雇用障害者数」となります。この超過数が正(プラス)であれば、調整金の受給対象となり得ます。
障害者雇用調整金の具体的な支給額
障害者雇用調整金の支給額は、対象となる超過雇用障害者数と、JEEDが定める単価によって決まります。
- 調整金の単価: 1人月あたり27,000円(令和5年度実績)。この単価は年度によって改定される可能性がありますので、申請年度の最新情報を確認してください。
- 支給額の計算: 超過雇用障害者数(年間での総数) × 調整金の単価(27,000円)
例えば、年間を通じて常に法定雇用率を1人分超えて障がい者を雇用していた場合、1人×12ヶ月=12人月分の超過となり、支給額は12人月 × 27,000円 = 324,000円となります。
正確な支給額は、年度末に提出する「障害者雇用状況等報告書」および「障害者雇用納付金等申告書」に基づいてJEEDが算定し、決定します。
申請方法と手続きの流れ
障害者雇用調整金の申請は、原則として「障害者雇用納付金等申告書」の提出をもって行われます。
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必要書類の準備:
- 障害者雇用納付金等申告書
- 障害者雇用状況等報告書の控え(コピー)
- 対象となる障がい者の障がい者手帳等の証明書類のコピー
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書の控え等、雇用を証明する書類のコピー
- その他、JEEDが必要とする書類
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提出先:
- 事業所の所在地を管轄するJEED支部高齢・障害者業務課(都道府県によって名称が異なる場合があります)
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提出時期:
- 原則として、毎年4月1日から5月15日まで(休日と重なる場合は翌開庁日)です。この期間内に、前年度(4月1日~3月31日)の雇用状況に基づいて申告を行います。
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手続きの流れ:
- 算定基礎期間(4月1日~3月31日)の雇用状況を集計します。
- 「障害者雇用納付金等申告書」に必要な情報を記入します。特に、月ごとの常用雇用労働者数と障がい者雇用数を正確に記載することが重要です。
- 必要書類を添えて、管轄のJEED支部に提出します。
- JEEDにおいて申告内容の審査が行われます。
- 審査の結果、調整金の支給決定通知書が送付されます。
- 指定の口座に調整金が振り込まれます。
近年では、電子申告システム(e-Gov)を利用したオンラインでの申告も可能です。オンライン申告は、申告書の作成支援機能や入力ミスのチェック機能があり、担当者の負担軽減につながる可能性があります。
企業側から見たメリットと利用上の注意点
メリット
- 経済的負担の軽減: 法定雇用率を超えて障がい者を雇用することで発生する追加的な人件費や、職場環境整備にかかる費用の一部を調整金によって補填できます。
- 障がい者雇用推進へのインセンティブ: 調整金の受給が、企業内で障がい者雇用をさらに推進していくための動機付けとなります。
- 企業イメージの向上: 積極的に障がい者雇用に取り組む企業として、社会的な評価や企業イメージの向上につながります。
- 安定的な雇用継続: 受給した調整金を障がい者社員のための職場環境整備や定着支援、能力開発に再投資することで、より働きやすい環境を作り、雇用の安定化を図ることができます。
利用上の注意点・デメリット
- 申請手続きの負担: 申告書の作成や必要書類の準備には、ある程度の時間と労力がかかります。特に、初めて申請する場合は、制度の理解や書類収集に戸惑う可能性があります。
- 正確な雇用状況の把握: 月ごとの常用雇用労働者数や障がい者雇用数を正確に集計し、適切に算定する必要があります。カウント方法の誤りは、申告内容の不備や調整金受給額の誤りにつながります。
- 制度改正への対応: 障害者雇用関連の制度は、定期的に見直しが行われる可能性があります。最新の受給要件や申請方法、単価などの情報を常に確認しておく必要があります。
- 受給額の変動可能性: 常用雇用労働者数や障がい者雇用数の変動により、年間で算出される超過雇用障害者数が変動し、結果として調整金の受給額も変動する可能性があります。
調整金受給に向けた実務上のポイント
労務担当者として、障害者雇用調整金の受給を円滑に進めるためには、以下のポイントに留意することが効果的です。
- 月次での正確な集計: 毎月、常用雇用労働者数と障がい者雇用数を正確に集計・記録する体制を構築しておくことが重要です。これにより、年度末の集計作業の負担を軽減し、ミスの発生を防ぐことができます。
- 障がい者手帳等の管理: 対象となる障がい者社員の障がい者手帳等の有効期限や更新状況を適切に管理し、必要に応じてコピーを取得・保管しておく必要があります。
- 雇用保険被保険者記録の確認: 雇用保険の資格取得状況は、常用雇用労働者数や障がい者雇用の確認に不可欠です。JEEDからの照会にスムーズに対応できるよう、関連書類を整理しておきましょう。
- JEEDからの情報収集: JEEDのウェブサイトや発行するパンフレット等で、最新の制度情報、申告書の様式、記載例などを定期的に確認してください。制度説明会等が開催される場合に参加することも有効です。
- 社内関係部署との連携: 人事部門や採用担当者、障がい者社員が所属する部署など、社内の関係部署と密に連携し、障がい者雇用に関する正確な情報を共有しておくことが、申告作業を円滑に進める上で不可欠です。
- 電子申請の活用検討: e-Govを利用した電子申請は、入力補助機能などが充実しており、申告書の作成や提出の効率化につながる可能性があります。導入を検討してみる価値があります。
まとめ
障害者雇用調整金は、常用雇用労働者数100人を超える企業が法定雇用率を超えて障がい者を雇用している場合に受給できる制度であり、障がい者雇用推進に対する経済的なインセンティブとなります。
本稿では、調整金の目的、受給要件、支給額の計算方法、申請手続き、メリット・デメリット、そして受給に向けた実務上のポイントを解説しました。労務担当者の皆様におかれましては、これらの情報を参考に、自社の障がい者雇用状況を正確に把握し、調整金の受給を通じて、障がい者社員にとってより良い雇用環境の整備と雇用の安定化に繋げていただければ幸いです。
ご不明な点や詳細な確認が必要な場合は、管轄のJEED支部にお問い合わせいただくことをお勧めいたします。