企業の障がい者雇用支援制度ガイド

【労務担当者向け】障がい者社員の「定着」を実現する!雇用継続に役立つ国の助成金・支援制度活用ガイド

Tags: 障がい者雇用, 定着, 助成金, 支援制度, 雇用継続, 労務

障がい者雇用の重要な課題「定着」と国のサポート

障がい者雇用を進める上で、採用後の「定着」は多くの企業様にとって重要な課題の一つです。法定雇用率の達成はもちろんのこと、戦力として活躍してもらうためには、安心して働き続けられる環境整備が不可欠となります。労務担当者の皆様も、日々、障がいのある社員の方々が抱える様々な課題への対応や、より良い職場環境づくりにご尽力されていることと存じます。

本記事では、障がい者社員の雇用継続と定着率向上を目指す企業の労務担当者の皆様に向けて、国が提供している助成金や支援制度をどのように活用できるのか、その具体的な方法を詳しく解説いたします。単なる制度概要に留まらず、実務に役立つ具体的な要件、申請のポイント、そして各制度のメリット・デメリットまで、企業の状況に応じた最適な活用戦略を検討するための情報を提供いたします。

障がい者社員の定着支援に関する国の制度全体像

障がい者社員の定着を支援するための国の制度は、多岐にわたります。大きく分けて、以下の視点から活用を検討できる制度があります。

  1. 職場環境・設備整備の支援: 物理的な環境改善や特別な設備の導入を支援する助成金
  2. 介助・支援体制構築の支援: 介助者や手話通訳者の配置、相談体制構築などを支援する助成金
  3. 個別の課題解決・定着支援: 専門家による職場適応支援や就業・生活両面からの相談支援

これらの制度は単独で利用するだけでなく、組み合わせて活用することで、より包括的かつ効果的な定着支援体制を構築することが可能となります。

定着支援に役立つ主要な助成金・支援制度の詳細

ここでは、障がい者社員の定着率向上に特に有効と考えられる主要な助成金・支援制度を掘り下げて解説します。

1. 障害者介助等助成金

制度の目的と概要: 障がい特性により、通常の業務遂行に困難を伴う場合や、通勤に特別な配慮が必要な場合に、その障がいのある社員を援助する体制を整える企業に対して支給される助成金です。主に以下の3コースがあります。

定着という観点では、「職場介助等助成金」の相談窓口設置や業務遂行支援のための体制構築、「職場介助者の配置等助成金」による人的サポート体制強化が直接的に関連します。

対象となる企業・取り組み等の詳細要件: * 対象企業: 雇用保険の適用事業主であること。障がい者を継続して雇用する見込みがあること。 * 対象障がい者: 雇用保険被保険者として雇用される障がい者。各コースにより対象となる障がいの種類や程度、業務遂行上の困難性の要件が異なります。 * 対象となる取り組み: 各コースで定められた介助や支援の内容を実施すること。例えば、職場介助等助成金(相談窓口設置等)では、社内または外部に相談窓口を設置し、実際に障がい者社員からの相談に対応する体制を整備・運用していることなどが要件となります。

申請方法、手続きの流れ、必要書類: * ハローワークに提出。 * 取り組みの計画段階で申請し、計画認定を受けた後、実施期間を経て支給申請を行います。 * 必要書類:支給申請書、雇用契約書、労働者名簿、障がい者の状況が確認できる書類、取り組み内容を証明する書類(相談記録、介助者の配置状況が分かる書類、購入契約書等)、経費の支出を証明する書類など。

具体的な支給額・算定方法・支給期間: * コースや助成対象の内容(購入・設置費用か、人件費か等)により異なります。 * 職場介助等助成金(相談窓口設置等):相談員の人件費、外部委託費、設置運営費等が助成対象となり、対象経費の一部または上限額が支給されます。 * 職場介助者の配置等助成金:対象となる介助者の賃金の一部が一定期間(最大3年間など)にわたり支給されます。 * 支給額や期間は法改正等により変更される可能性があるため、申請前に最新の情報を確認する必要があります。

企業側のメリット・デメリット、利用上の注意点: * メリット: 障がい特性に応じたきめ細やかなサポート体制を構築できるため、障がい者社員の安心感に繋がり、離職防止に効果的です。人的・経済的負担の軽減にもなります。 * デメリット: 申請手続きに時間と労力がかかる場合があります。対象となる取り組み内容が具体的に定められているため、自社のニーズと合致するか見極めが必要です。 * 注意点: 事前にハローワーク等に相談し、自社の取り組みが対象となるか、具体的な要件を満たすかを確認することが重要です。計画認定前の取り組みは原則として助成対象外となります。

2. 職場環境改善助成金

制度の目的と概要: 障がい者が働く上で生じる様々な困難を解消し、職場で能力を有効に発揮できるようにするための作業施設・設備の設置または整備、その他の必要な改善について費用の一部を助成する制度です。単にバリアフリー化だけでなく、相談しやすい環境整備やコミュニケーション支援ツールの導入なども対象となり得ます。

対象となる企業・取り組み等の詳細要件: * 対象企業: 雇用保険の適用事業主であること。 * 対象障がい者: 雇用保険被保険者として雇用される障がい者。 * 対象となる取り組み: 障がい者の雇用継続・能力発揮を支援するために必要な職場環境改善。例:手すり設置、スロープ設置、音声認識ソフト導入、筆談ボード設置、障がい特性に関する社内研修実施、相談室設置などが考えられます。ただし、一般的な事業活動に必要な設備や、他の助成金の対象となる取り組みとは重複しません。

申請方法、手続きの流れ、必要書類: * 高年齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に申請。 * 改善計画書を作成し、事前に提出・認定を受ける必要があります。計画に基づき改善を実施した後、完了報告と支給申請を行います。 * 必要書類:計画認定申請書、改善計画書、工事費用の見積書、雇用契約書、障がい者の状況が確認できる書類など。支給申請時には、改善完了を証明する書類(写真、領収書等)が必要です。

具体的な支給額・算定方法・支給期間: * 助成対象となる改善費用の一部(通常、対象経費の4分の3や3分の2など)が支給されます。助成対象となる改善内容や規模に応じて上限額が設定されています。 * 支給は原則として1回限りです。

企業側のメリット・デメリット、利用上の注意点: * メリット: 障がい者社員が働きやすい物理的・心理的な環境を整備できます。多様な社員が働きやすいユニバーサルデザインの職場づくりにも繋がります。相談室設置などは、全ての社員の心理的安全性の向上にも寄与し得ます。 * デメリット: 助成対象となる改善内容には制限があり、企業の全ての改善ニーズに応えられるとは限りません。計画認定から支給まで一定の期間がかかります。 * 注意点: 助成対象となる「職場環境改善」の範囲が比較的広いため、自社の具体的な改善内容が対象となるか、事前にJEEDに相談することが重要です。計画認定前に着手した改善は対象外となるため、必ず事前の手続きが必要です。

3. 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業

制度の目的と概要: 障がいのある社員が職場で直面する様々な課題(業務遂行、対人関係、生活リズム等)に対して、専門的な知識と経験を持つジョブコーチが個別に支援を行う事業です。障がい者本人、事業主、職場の同僚それぞれに対して支援を行い、職場適応を図ることで定着を促進します。これは助成金ではなく、JEEDなどが行う直接的な「支援」サービスです。

対象となる企業・取り組み等の詳細要件: * 対象企業: 障がい者を雇用、または雇用を検討している企業。 * 対象障がい者: 職場への適応に課題を抱えている障がい者。障がいの種類や雇用形態は問いません。 * 対象となる支援: ジョブコーチが、障がい者本人への直接的な指導・助言、企業への助言、職場の同僚への働きかけなどを行います。支援期間は原則として8週間ですが、状況に応じて延長される場合もあります。

申請方法、手続きの流れ: * JEEDの地域障害者職業センターや、事業を受託している社会福祉法人等に相談・申請。 * 相談後、支援対象者の状況把握、支援計画策定、実際の支援実施、支援終了後のフォローアップという流れで進められます。

具体的な費用: * 企業側の費用負担は基本的にありません。JEEDが費用を負担します。

企業側のメリット・デメリット、利用上の注意点: * メリット: 障がい者個別の課題に専門家が対応してくれるため、労務担当者や現場の負担を軽減できます。客観的な視点からのアドバイスにより、社内だけでは解決が難しかった問題も解決できる可能性があります。早期の離職を防ぎ、安定した雇用に繋がります。 * デメリット: ジョブコーチの支援期間には限りがあります。支援終了後に企業側で自立した支援体制を構築する必要があります。 * 注意点: ジョブコーチに全てを任せるのではなく、企業側も積極的に連携し、支援計画の共有や情報提供を行うことが重要です。支援を通じて得られたノウハウを社内で共有し、今後の障がい者雇用に活かす視点を持つと良いでしょう。

4. 障害者就業・生活支援センター

制度の目的と概要: 障がいのある方の身近な地域において、就業面および生活面の一体的な相談・支援を行う機関です。障がい者本人だけでなく、企業からの相談にも応じ、職場における課題解決に向けた助言や関係機関との連携を行います。これも直接的な助成金ではなく、企業も活用できる「支援」サービスです。

対象となる企業・支援内容: * 対象企業: 障がい者を雇用、または雇用を検討している企業。 * 支援内容: 障がい者雇用に関する企業の様々な悩み(例:障がい特性への理解、適切な配慮、他の社員とのコミュニケーション、定着支援策など)に対する専門的な助言、課題解決に向けた情報提供、必要に応じて他の支援機関(ハローワーク、医療機関、自治体等)との連携調整などを行います。

申請方法、手続きの流れ: * 全国に設置されているセンターに直接連絡・相談。 * 企業からの相談内容に応じて、面談や職場訪問等を通じて状況を把握し、具体的な助言やサポートが提供されます。

具体的な費用: * 企業側の費用負担は基本的にありません。

企業側のメリット・デメリット、利用上の注意点: * メリット: 地域に根差した機関であり、きめ細やかな相談対応が期待できます。就業面だけでなく生活面も含めた一体的な支援を提供しているため、障がい者本人の抱える広範な課題に対するアドバイスを得られます。他の地域の支援機関との連携も可能です。 * デメリット: センターによって得意とする支援分野やリソースに差がある場合があります。 * 注意点: 障がい者社員本人にセンターの利用を勧めるだけでなく、企業側が能動的に相談することで、より効果的な支援に繋がります。定期的な情報交換や連携を深めることで、障がい者雇用に関する良きパートナーとなり得ます。

制度活用にあたっての具体的なポイントと最適な選び方

障がい者社員の定着を促進するためにこれらの制度を活用するにあたり、以下の点を考慮することが重要です。

制度活用の具体的な事例(架空)

事例:製造業 A社

この事例のように、複数の制度を組み合わせ、人的支援、環境整備、専門家によるサポートを一体的に行うことで、障がい者社員の定着を強力に後押しすることが可能です。

まとめ

障がい者社員の雇用継続と定着は、企業の持続的な成長にとって不可欠な要素です。そして、その実現のために、国は様々な助成金や支援制度を提供しています。

本記事でご紹介した障害者介助等助成金、職場環境改善助成金、ジョブコーチ支援事業、障害者就業・生活支援センターなどの制度は、それぞれ異なるアプローチで企業の定着支援をサポートします。これらの制度の目的、詳細な要件、申請方法、そして企業側のメリット・デメリットを十分に理解し、自社の状況や障がい者社員の方々のニーズに合わせて適切に活用することが重要です。

単に制度を利用するだけでなく、これらの支援をきっかけとして社内の理解促進やサポート体制を一層強化していくことが、真の意味での「定着」に繋がります。労務担当者の皆様におかれましては、ぜひこれらの制度を積極的にご活用いただき、障がいのある社員の方々が安心して長く活躍できる職場環境の実現を目指していただきたく存じます。不明な点や具体的な検討にあたっては、ハローワークやJEED、障害者就業・生活支援センター等の関係機関に相談されることをお勧めいたします。