【労務担当者向け】法定雇用率達成のインセンティブ!障がい者雇用促進法に基づく報奨金の受給要件・手続き・活用方法
はじめに:障がい者雇用における報奨金制度の意義
企業の障がい者雇用を進める上で、様々な助成金や支援制度の活用は重要です。その中で、既に法定雇用率を達成している企業に対しては、障がい者雇用促進法に基づき「報奨金制度」が設けられています。この制度は、法定雇用率達成という社会的な責務を果たしている企業へのインセンティブとして機能し、さらなる雇用安定や環境整備を後押しすることを目的としています。
本記事では、法定雇用率達成企業が受給できる報奨金制度について、労務担当者の皆様が知っておくべき詳細な要件、申請手続き、そして制度を最大限に活用するためのポイントを解説します。既に雇用率を達成している企業、あるいは達成を目指している企業にとって、この制度を正しく理解し活用することは、経済的なメリットだけでなく、障がいのある方の雇用継続や職場定着にも繋がる重要な要素となります。
報奨金制度の目的と概要
障がい者雇用促進法に基づく報奨金制度は、障がい者の雇用が著しく困難な状況にあるにもかかわらず、法定雇用率を超過して障がい者を雇用している事業主に対して報奨金を支給するものです。これは、障がい者雇用に関する事業主の経済的負担の調整を図るための「障害者雇用納付金制度」の一部として運用されています。
具体的には、常用雇用する障がい者の数が、法定雇用率に応じて算出される数を「超える」企業がこの制度の対象となります。超過した人数に応じて報奨金が支給される仕組みです。これは、法定雇用率を達成できない企業が納付金を納めるのに対し、達成してさらに雇用を進める企業が報奨金を受け取るという形で、制度全体として企業間の経済的負担の均衡を図っています。
報奨金は、障がい者の雇用に関する取り組み、特に雇用継続や環境整備に要する費用に充当されることが期待されています。
報奨金受給の対象となる企業と主な要件
報奨金制度の対象となるのは、以下の全ての要件を満たす企業です。
対象となる事業主
- 常時雇用している従業員数が100人を超える事業主であること。
- 障がい者を雇用している事業主であること。
報奨金の算定対象となる期間
報奨金の算定対象となる期間は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間です。この期間の実績に基づいて報奨金が支給されます。
報奨金の受給要件:雇用率の達成
最も重要な要件は、算定対象期間における各月の障がい者雇用状況において、以下のいずれかを満たすことです。
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各月の常用雇用障がい者数の年度間合計数が、各月の常時雇用労働者数の年度間合計数に法定雇用率を乗じて得た数(基準雇用率達成数)を超えていること。
- 具体的には、年度の合計雇用率が法定雇用率を超過している状態を指します。
- 算定対象となる障がい者は、原則として週所定労働時間20時間以上の常用労働者です。重度身体障がい者や重度知的障がい者はダブルカウント、精神障がい者のうち週30時間以上の者はダブルカウント(令和5年4月1日施行の特例措置による)、週20時間以上30時間未満の者は0.5カウントとなります。
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上記1の要件を満たさない場合でも、常用雇用障がい者数が、各月の常時雇用労働者数の年度間合計数を43.5で除して得た数(調整基礎数)を超えていること。
- この要件は、法定雇用率が大幅に引き上げられた場合などの経過措置的な側面を持つ場合がありますが、一般的には上記の「基準雇用率達成数」を超えることが主な要件となります。詳細は最新の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の情報を確認してください。
対象となる障がい者
報奨金の算定対象となる「常用雇用障がい者」は、原則として以下の通りです。
- 身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者のうち、原則として週所定労働時間20時間以上の常用労働者として雇用されている方。
- カウント方法については、前述のように障がい種別や労働時間、重度判定によって異なります。精神障がい者の雇用促進のため、令和5年4月1日より特定の条件(新規雇用から3年以内など)を満たす週30時間以上雇用される精神障がい者がダブルカウントの対象となる特例措置があります。
報奨金の算定方法と支給額
報奨金の算定は、算定対象期間(4月1日~翌年3月31日)における各月の障がい者雇用状況に基づいて行われます。
算定の基本的な考え方
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各月の常時雇用労働者数に応じた「基準雇用率達成数」または「調整基礎数」を算出します。
- 基準雇用率達成数 = 各月の常時雇用労働者数 × 法定雇用率
- 調整基礎数 = 各月の常時雇用労働者数 ÷ 43.5
- これらの年間合計と比較して、常用雇用障がい者数の年間合計がどちらか多い方を超過しているかを確認します。
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常用雇用障がい者数の年間合計数が、基準雇用率達成数または調整基礎数の年間合計数を超過している場合、その超過人数(「実雇用障がい者数」という)に対して報奨金が支給されます。
- 実雇用障がい者数 = 算定対象期間における各月の常用雇用障がい者数の合計 ÷ 12 (小数点以下切り捨て)
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報奨金額を算出します。
- 報奨金額 = 実雇用障がい者数 × 1人あたりの月額報奨金額 × 12ヶ月
1人あたりの報奨金額
令和5年度における1人あたりの月額報奨金額は23,000円です。 年間では1人あたり276,000円となります。
(例) * 算定対象期間における常用雇用障がい者数の合計が年間で48人(月平均4人) * 基準雇用率達成数(または調整基礎数)の合計が年間で36人(月平均3人) * この場合、実雇用障がい者数は (48 - 36) ÷ 12 = 1人(小数点以下切り捨て)となります。 * 報奨金額は 1人 × 23,000円 × 12ヶ月 = 276,000円となります。
※具体的な算定方法や計算例は、JEEDのウェブサイトやパンフレットで詳しく確認することができます。特に常時雇用労働者数の算定や障がい者のカウント方法には詳細なルールがあるため、正確な計算のためには参照が必要です。
報奨金の申請手続きの流れ
報奨金の申請は、算定対象期間が終了した後に行います。
申請期間
算定対象期間(4月1日~翌年3月31日)の翌年度の4月1日から5月15日までが申請期間となります。この期間内に、管轄のJEED支部高齢・障害者業務課に申請書類を提出する必要があります。
申請書類
申請には、主に以下の書類が必要となります。
- 報奨金等支給申請書
- 常用雇用労働者数及び障がい者数算定対象期間報告書(またはそれに準ずる書類)
- 添付書類(雇用契約書、賃金台帳、労働者名簿、障がい者手帳等の写しなど、障がい者及び常用雇用労働者の状況を確認できる書類)
必要書類の様式や詳細はJEEDのウェブサイトからダウンロードできます。初めて申請する場合や制度改正があった場合は、事前にJEEDの窓口に相談することをお勧めします。
申請手続きの流れ
- 算定対象期間の雇用状況の集計: 毎年4月1日から翌年3月31日までの各月の常用雇用労働者数と常用雇用障がい者数(カウント数)を正確に集計します。
- 必要書類の作成: JEEDのウェブサイトから最新の様式をダウンロードし、必要事項を記入します。障がい者の状況を確認できる書類のコピーなども準備します。
- 管轄のJEED支部へ提出: 申請期間内に、事業所の所在地を管轄するJEED支部高齢・障害者業務課へ書類を提出します。郵送または持参が可能です。
- 審査: 提出された書類に基づき、JEEDで支給要件を満たしているかの審査が行われます。
- 支給決定と通知: 審査の結果、支給が決定した場合、支給決定通知書が送付されます。不支給の場合も通知があります。
- 報奨金の受給: 支給決定後、指定した金融機関の口座に報奨金が振り込まれます。
報奨金制度のメリットとデメリット、利用上の注意点
企業側のメリット
- 経済的なインセンティブ: 法定雇用率を達成・超過していることに対する経済的な評価として報奨金を受給できます。これは、障がい者雇用にかかる採用費や設備投資、環境整備などの費用の一部に充当することが可能です。
- 雇用の安定・促進: 報奨金を受給することで、障がい者のさらなる雇用や、既に雇用している障がい者の職場環境改善、定着支援への投資を検討しやすくなります。
- 企業のCSR評価向上: 法定雇用率を超過して障がい者を雇用しているという実績は、企業の社会的責任(CSR)への取り組みとして高く評価されます。
企業側のデメリット
- 申請手続きの事務負担: 毎年、算定対象期間の雇用状況を集計し、申請書類を作成・提出する必要があります。特に初めて申請する場合や、障がい者のカウント方法が複雑な場合は、一定の事務負担が発生します。
- 支給額が変動する可能性: 報奨金の支給額は、毎年の障がい者雇用状況によって変動します。必ずしも一定額を受給できるわけではありません。
利用上の注意点
- 正確な雇用状況の把握: 各月の常用雇用労働者数と常用雇用障がい者数を正確に把握することが不可欠です。特に障がい者のカウント方法(週所定労働時間、重度判定、精神障がい者の特例など)は間違いやすいため、最新の情報を確認し、誤りのないように集計する必要があります。
- 申請期間の厳守: 申請期間は毎年4月1日から5月15日までと定められています。この期間を過ぎると申請を受け付けてもらえません。計画的に準備を進めることが重要です。
- 必要書類の準備: 申請には様々な添付書類が必要です。日頃から雇用契約書や障がい者手帳の管理を適切に行い、スムーズに提出できるよう準備しておくことが望ましいです。
- 最新情報の確認: 制度の要件や報奨金額、申請手続きに関する詳細は、法改正や運用変更により変更される可能性があります。申請にあたっては、必ずJEEDのウェブサイト等で最新の情報を確認してください。
他の支援制度との関連
報奨金制度は、障害者雇用納付金制度の一部として、主に法定雇用率達成企業へのインセンティブとして機能します。一方で、障がい者の雇用を「開始」したり、「雇用を継続」したり、「職場環境を改善」したりするための具体的な取り組みに対しては、別途様々な助成金制度が用意されています。
例えば:
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース): 高齢者や障がい者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れた場合に支給されます。
- 障害者トライアル雇用助成金: 障がい者を試行的に短期間雇用(トライアル雇用)する場合に支給されます。
- 障害者介助等助成金: 障がいのある方が職場で働く上で特別な介助等が必要な場合に、その費用を助成するものです。
- 職場環境改善助成金: 障がい者が働きやすいように職場環境を改善するための費用を助成するものです。
報奨金は雇用率達成という「結果」に対する評価ですが、これらの助成金は雇用や環境整備という「取り組み」を支援するものです。両者は目的が異なりますが、企業としては、報奨金を受給しつつ、その資金を更なる障がい者雇用促進や環境改善のための助成金活用(自己負担分への充当など)に繋げることで、より効果的に障がい者雇用を進めることができます。
報奨金制度を効果的に活用するためのポイント
報奨金制度を単なる収入源と捉えるのではなく、障がい者雇用全体の質を高めるための機会として活用することが重要です。
- 計画的な雇用管理: 報奨金の受給は年度ごとの雇用状況に依存します。安定的に受給するためには、計画的な採用活動と、雇用した障がい者の定着支援に継続的に取り組む必要があります。
- 報奨金の使途の検討: 受給した報奨金を、単なる一般経費として扱うのではなく、障がい者のスキルアップ研修、キャリアパス支援、新たな設備導入、相談体制の強化など、より良い雇用環境整備に再投資することを検討しましょう。これにより、障がい者のモチベーション向上や生産性向上に繋がり、ひいては企業の持続的な発展にも貢献します。
- 社内への周知と啓発: 報奨金制度について社内に周知し、法定雇用率達成が企業にとって経済的メリットにも繋がることを示すことで、障がい者雇用に対する社内の理解や協力を促進できます。
- 専門機関との連携: JEEDやハローワーク、地域障害者職業センターなどの専門機関は、障がい者雇用に関する様々な情報提供や相談支援を行っています。報奨金制度だけでなく、その他の助成金や支援サービスについても積極的に情報を収集し、必要に応じて相談することで、自社に最適な障がい者雇用戦略を立てることが可能です。
まとめ:法定雇用率達成企業の責務と報奨金制度の活用
障がい者雇用促進法に基づく報奨金制度は、法定雇用率を達成し、障がい者を積極的に雇用している企業に対する正当な評価であり、経済的な支援です。これは、障がい者雇用が社会全体で支えられるべきものであり、負担だけでなく貢献に対してもインセンティブがあるべきだという思想に基づいています。
労務担当者としては、この制度を正しく理解し、毎年適切に申請することで、企業にとっての経済的なメリットを確保するとともに、それを障がい者雇用の更なる推進や、既に雇用している方の働きがい向上、定着率向上に繋げることが求められます。報奨金の受給は、障がい者雇用が単なる法令遵守に留まらず、企業の競争力強化や社会的評価の向上にも資する取り組みであることを社内外に示す良い機会でもあります。
常に最新の制度情報を確認し、他の様々な支援制度とも組み合わせながら、自社の状況に応じた最適な障がい者雇用戦略を実行していくことが、法定雇用率達成企業としての責務であり、報奨金制度活用の本質であると言えるでしょう。