【労務担当者向け】障がい者短時間労働者の雇用支援制度:法定雇用率算定と助成金活用ポイント
はじめに:障がい者短時間労働者の雇用が持つ重要性
法定雇用率の達成を目指す企業の労務担当者様にとって、障がい者の雇用は重要な経営課題の一つです。特に、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の「短時間労働者」としての障がい者雇用は、法定雇用率の算定において0.5人分としてカウントされるため、戦略的な雇用計画において重要な位置を占めます。
短時間勤務は、障がいのある方の就労ニーズや健康状態、通勤負担などを考慮した場合に、現実的で継続しやすい働き方である場合があります。企業側にとっても、業務内容に合わせて雇用形態を柔軟に選択できるというメリットがあります。
本稿では、この障がい者短時間労働者の雇用に焦点を当て、法定雇用率算定上の具体的な扱い、活用できる国の助成金・支援制度の詳細、そしてそれらを効果的に活用するためのポイントや注意点について、実務担当者の視点から解説いたします。
法定雇用率算定における短時間労働者の扱い
障がい者雇用促進法に基づき、企業は従業員数に応じた法定雇用率以上の障がい者を雇用する義務があります。この法定雇用率の算定において、障がい者のカウント方法は労働時間によって異なります。
フルタイム労働者と短時間労働者のカウント
- フルタイム労働者: 週の所定労働時間が30時間以上の障がい者は、原則として1人としてカウントされます。
- 短時間労働者: 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の障がい者は、原則として0.5人としてカウントされます。
- 週20時間未満の労働者: 週の所定労働時間が20時間未満の障がい者は、原則として法定雇用率の算定対象にはなりません。
重度障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者のカウント
特定の障がいのある方については、より手厚いカウントが行われます。
- 重度身体障がい者、重度知的障がい者: 週の所定労働時間が30時間以上の場合は2人、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は1人としてカウントされます。
- 精神障がい者: 週の所定労働時間が30時間以上の場合は1人、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は1人としてカウントされます(令和5年4月1日より)。
短時間労働者である精神障がい者が1人としてカウントされるようになった点は、法定雇用率達成を目指す上で重要な変更点と言えます。
法定雇用率の算定は、毎年の6月1日時点で行われるため、この算定方法を正確に理解し、戦略的に雇用計画を立てることが重要です。特に、0.5人カウントとなる短時間労働者の雇用は、法定雇用率の微調整や、多様な人材の受け入れ体制構築において有効な選択肢となり得ます。
障がい者短時間労働者の雇用に活用できる国の主な支援制度・助成金
障がい者短時間労働者の雇用を促進し、企業が安定した雇用環境を整備できるよう、国は様々な助成金や支援制度を用意しています。これらの制度は、フルタイム労働者だけでなく、要件を満たせば短時間労働者の雇用にも適用されるものや、短時間雇用に特化したものがあります。
1. 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
この助成金は、障がい者など就職が特に困難な方をハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者、高年齢被保険者、短時間労働被保険者)として雇い入れる事業主に対して支給されます。
- 短時間労働者への適用: 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者として障がい者を雇い入れた場合も、支給対象となります。
- 支給額: 雇い入れた対象労働者の種類や、企業の規模(中小企業かそれ以外か)によって異なります。短時間労働者の場合は、フルタイム労働者の場合の支給額の2分の1が支給されるのが一般的です(一部例外あり)。
- 例:身体・知的障がい者、精神障がい者(中小企業)の場合、フルタイムでは最大120万円(1年)、短時間では最大60万円(1年)といった形で設定されています。
- 支給期間: 支給対象となる期間は、対象労働者の種類に応じて最長1年または2年となります。短時間労働者の場合も同様の期間で、6ヶ月ごとに分割して支給されます。
- 要件: ハローワーク等の紹介であること、継続雇用が見込まれること、雇用保険の被保険者となることなど、詳細な要件があります。週20時間未満の雇用は対象外です。
- メリット: 採用初期の賃金負担軽減に直接つながり、障がい者雇用の導入障壁を下げる効果があります。
- 注意点: 申請期間や手続きが定められています。また、支給期間中に離職や労働時間短縮などが発生した場合は、支給額が減額されたり、不支給となる場合があります。
2. 障害者トライアル雇用助成金(一般トライアルコース、障害者短時間トライアルコース)
この助成金は、ハローワーク等の紹介により、障がい者を原則3ヶ月間のトライアル雇用として雇い入れる事業主に対して支給されます。これは、障がい者の適性や能力を見極め、常用雇用への移行を図ることを目的としています。
- 障害者短時間トライアルコース: このコースは、精神障がい者、発達障がい者の方を対象とし、週10時間から20時間未満の短時間労働者としてトライアル雇用を実施する場合に利用できます。これは、従来のトライアル雇用では難しかった、より短い時間からの就労開始を可能にするための制度です。
- 一般トライアルコース(短時間労働者への適用): 精神障がい者、発達障がい者以外の障がい者の場合や、週20時間以上のトライアル雇用を実施する場合は、一般トライアルコースが適用されます。この場合も、週20時間以上30時間未満の短時間労働者としてトライアル雇用を行うことが可能です。
- 支給額:
- 一般トライアルコース(週20時間以上): 1人当たり月額最大4万円(最長3ヶ月)
- 障害者短時間トライアルコース(週10時間以上20時間未満): 1人当たり月額最大2.5万円(最長3ヶ月)
- メリット: 採用前のミスマッチリスクを低減できます。特に短時間トライアルは、障がい特性に配慮した段階的な就労開始を支援します。
- 注意点: トライアル雇用期間中の賃金や労働条件は、ハローワーク等との間で締結するトライアル雇用計画書に基づいて決定されます。トライアル期間終了後に常用雇用へ移行しない場合でも、原則として支給されますが、企業の都合による一方的な打ち切りには注意が必要です。
3. 障害者介助等助成金
障がい特性により、職場への適応や業務遂行が困難な障がい者に対して、必要な援助や配慮を行うための費用を助成する制度です。短時間労働者であるか否かにかかわらず利用可能です。
- 活用例:
- 通勤に困難がある短時間勤務の社員のために、通勤用介助者の委嘱費用を助成(通勤用介助)。
- 聴覚障がいのある短時間勤務の社員のために、手話通訳担当者の委嘱費用を助成(手話通訳等介助)。
- 精神障がいのある短時間勤務の社員のために、職場における指示・伝達、コミュニケーション等を支援する者の配置費用を助成(職場支援員の配置)。
- メリット: 障がい者の定着支援に繋がり、安心して働き続けられる環境整備を後押しします。短時間勤務であるがゆえの特定の支援ニーズ(例:混雑時間を避けた通勤介助)に対応できます。
- 注意点: 助成対象となる介助等の内容は限定されています。また、支給には上限額や支給期間が定められています。
4. 職場環境改善助成金
障がい者が働きやすいように、職場環境を整備するための費用を助成する制度です。短時間労働者の雇用においても、職場環境改善は定着のために重要です。
- 活用例:
- 短時間勤務で体調に波がある社員のために、休憩室や仮眠室を設置・改修する費用。
- 移動に負担がある短時間勤務の社員のために、作業場所に近い場所にトイレや水回り設備を設置する費用。
- 精神障がいのある短時間勤務の社員のために、周囲からの刺激を遮断できる個別ブースや静養室を設ける費用。
- メリット: 障がい特性に合わせた物理的・設備的な環境改善を具体的に進めることができます。これは、短時間勤務であっても、業務効率や定着率の向上に寄与します。
- 注意点: 助成対象となる改善工事や設備等の範囲、支給上限額が定められています。申請前に具体的な計画を立て、要件を確認することが重要です。
短時間労働者雇用におけるメリット・デメリット(企業側視点)
障がい者を短時間労働者として雇用することには、企業にとっていくつかのメリットとデメリットがあります。
メリット
- 法定雇用率達成への貢献: 週20時間以上の勤務であれば0.5人カウントとなるため、法定雇用率の達成に段階的に貢献できます。特に中小企業など、フルタイム雇用の枠が限られる場合や、複数の障がい種別を組み合わせて雇用率を達成したい場合に有効です。
- 柔軟な業務配置: 短時間であれば、特定の業務や時間帯に限定して業務を割り当てやすくなります。これは、業務内容や障がい特性に合わせて柔軟な配置を行う上で役立ちます。
- 段階的な受け入れ: 障がい特性により長時間勤務が難しい場合や、ブランクがある場合など、短時間からスタートすることで、本人も企業も段階的に職場に慣れることができます。トライアル雇用なども活用しやすくなります。
- 採用可能性の拡大: フルタイムでの勤務が困難な方にも働く機会を提供できるため、採用対象となる人材層が広がります。
デメリット
- 業務分担の調整: 業務内容によっては、短時間勤務の場合、業務の分担や引き継ぎ、連絡調整などに工夫が必要となる場合があります。
- コミュニケーション頻度: 勤務時間が短い場合、チーム内や上司とのコミュニケーション頻度が少なくなり、情報共有が難しくなる可能性も考慮する必要があります。
- 管理コスト: 複数の短時間労働者を雇用する場合、個別の労務管理(勤怠管理、給与計算、評価など)や、個々の障がい特性への配慮に関する対応が、フルタイム社員の雇用とは異なる視点や手間を要する場合があります。
- 助成金額が低い場合がある: 特定求職者雇用開発助成金のように、短時間労働者に対する支給額がフルタイムの場合の2分の1となる制度があります。制度によっては、フルタイム雇用に比べて経済的なメリットが小さく感じられる場合があります。
制度活用にあたっての具体的なポイント・注意点
障がい者短時間労働者の雇用にあたり、国の支援制度を効果的に活用するためには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。
1. 目的とニーズの明確化
なぜ短時間労働者として障がい者を雇用したいのか、どのような業務を想定しているのか、本人の働き方の希望や障がい特性に応じたニーズは何かを具体的に洗い出します。この目的とニーズが明確であれば、活用すべき助成金や支援制度が自然と見えてきます。
2. 法定雇用率算定への影響を考慮した計画
短時間労働者は0.5人カウントとなることを踏まえ、自社の従業員数や現在の雇用状況から、法定雇用率達成に向けて何人分の雇用が必要かを計画します。フルタイム雇用と短時間雇用のバランスをどのように取るか、重度障がい者や精神障がい者の短時間雇用(1人カウント)をどう位置づけるかなども検討します。
3. 複数の制度の併用検討
採用段階で利用できるトライアル雇用助成金や特定求職者雇用開発助成金と、雇用後の定着・環境整備に役立つ介助等助成金や職場環境改善助成金など、複数の制度を組み合わせて活用することを検討します。例えば、短時間トライアルで適性を見極めた後、特定求職者雇用開発助成金を活用して常用雇用に移行し、必要に応じて介助等助成金で通勤支援を行う、といった戦略が考えられます。
4. 各制度の最新情報と詳細要件の確認
助成金制度は改正されることがあります。常に最新の情報を確認し、対象となる障がい者、雇用条件、支給額、申請期間、必要書類といった詳細な要件を正確に把握することが不可欠です。不明な点は、管轄のハローワークや労働局、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に問い合わせることをお勧めします。
5. 申請手続きと期限の管理
助成金の申請には期限が設けられています。採用決定後速やかに手続きを開始するなど、計画的に進めることが重要です。必要書類の準備にも時間を要することがありますので、早めの準備を心がけてください。
6. 障がい者本人との十分なコミュニケーション
短時間勤務の場合でも、業務内容、勤務時間、体調管理、必要な配慮などについて、障がい者本人と採用前・採用後に十分なコミュニケーションを取ることが最も重要です。これにより、ミスマッチを防ぎ、本人が安心して継続して働ける環境を構築できます。
まとめ:短時間労働者雇用の戦略的活用に向けて
障がい者短時間労働者の雇用は、法定雇用率達成の一助となるだけでなく、多様な人材の受け入れや、障がいのある方の働き方のニーズに応える上で有効な手段です。特定求職者雇用開発助成金やトライアル雇用助成金、介助等助成金、職場環境改善助成金など、様々な国の支援制度が用意されており、これらを適切に活用することで、企業は採用から定着までのプロセスを円滑に進めることができます。
実務担当者としては、単に雇用率を達成するためだけでなく、短時間労働者一人ひとりの能力を活かし、貢献してもらうための具体的な業務設計や、働きやすい環境整備に注力することが求められます。国の支援制度は、そのための手段として非常に強力な味方となります。
常に最新の情報を確認し、自社の状況と照らし合わせながら、最適な制度活用計画を策定・実行していくことが、障がい者雇用の成功、ひいては企業全体の組織力強化につながるでしょう。
この情報が、皆様の企業の障がい者短時間労働者雇用に関する取り組みの一助となれば幸いです。