法定雇用率未達成リスクと対策:雇用率改善に役立つ助成金・国の支援制度
法定雇用率未達成リスクへの対応と雇用率改善に役立つ助成金・国の支援制度
企業の社会的責任として、また労働力確保の一環としても、障がい者の雇用は重要な課題となっています。特に、法定雇用率の達成は、企業が果たすべき義務であり、未達成の場合には様々なリスクが発生します。
本稿では、法定雇用率の基本的な考え方と、それを未達成の場合に企業が直面しうるリスクについて改めて確認します。その上で、法定雇用率の改善・達成に向けて企業が活用できる、国の主要な助成金や各種支援制度について、実務担当者の視点から具体的な活用方法やポイントを解説します。
法定雇用率の達成・維持は容易ではありませんが、国の制度を効果的に活用することで、障がい者雇用の促進と安定化を図り、結果として雇用率の改善に繋げることが可能です。
法定雇用率の基礎と未達成のリスク
法定雇用率とは、企業規模に応じて雇用すべき障がい者の割合を定めたものです。常時雇用する労働者数が一定数以上の企業は、この率以上の障がい者を雇用する義務があります。
法定雇用率の算定対象と計算方法
法定雇用率は、原則として企業全体の常時雇用労働者数に対して算出されます。算定対象となる企業、常時雇用労働者の範囲、そして障がい者のカウント方法については、関連法規や厚生労働省のガイドラインに詳細が定められています。特に、短時間労働者のカウント方法や、重度障がい者のダブルカウントなど、正確な実雇用率を把握するためには、細部まで確認が必要です。
法定雇用率未達成の場合に発生しうるリスク
法定雇用率を達成できない場合、企業は以下のリスクに直面する可能性があります。
- 指導・勧告: 管轄のハローワーク等から、障がい者の雇入れに関する指導や勧告を受ける可能性があります。
- 企業名の公表: 勧告に従わず、改善が見られない場合、企業名が公表されることがあります。これは企業のレピュテーションに重大な影響を与える可能性があります。
- 障害者雇用納付金制度: 常時雇用労働者数100人超の企業で法定雇用率を未達成の場合、不足する障がい者数に応じて障害者雇用納付金を納付する義務が生じます。これは企業の経済的な負担となります。
これらのリスクを回避し、企業の社会的責任を果たすためにも、法定雇用率の達成は喫緊の課題と言えます。
雇用率改善・達成に役立つ主要な助成金・国の支援制度
法定雇用率の改善や達成を目指す企業に対し、国は様々な助成金や支援制度を用意しています。ここでは、特に雇用率に直接的または間接的に寄与する主要な制度をいくつかご紹介し、その活用ポイントを解説します。
採用段階で活用できる制度
障がい者を新たに雇用する際に利用できる助成金は、雇用率を直接的に引き上げるために非常に有効です。
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特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- 概要: 高齢者や障がい者などの就職困難者を継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。障がい者を対象とするコースは、精神障がい者、重度身体障がい者、重度知的障がい者、45歳以上の身体障がい者・知的障がい者などが対象となります。
- 雇用率への貢献: 新規雇用による実雇用率の向上に直接寄与します。特に重度障がい者はダブルカウントとなるため、雇用率への影響が大きくなります。
- 活用ポイント: 対象となる障がい者の範囲が広いため、採用計画に合わせて対象者を確認し、積極的に活用を検討できます。支給要件には一定期間の継続雇用が含まれるため、採用だけでなく定着支援も併せて行うことが重要です。より詳細な要件や申請手続きについては、当サイトの別記事「【労務担当者向け】特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)徹底解説」をご参照ください。
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障害者トライアル雇用助成金
- 概要: 障がい者を試行的に短期間(原則3ヶ月)雇用することにより、適性や能力を見極め、常用雇用への移行を目指す事業主に対して支給される助成金です。
- 雇用率への貢献: トライアル雇用期間中の障がい者は雇用率算定の対象となります。トライアル後に常用雇用へ移行すれば、継続的に雇用率に貢献します。
- 活用ポイント: 障がい者の採用に不安がある場合や、特定の業務への適性を見極めたい場合に有効です。トライアル期間中に企業と障がい者の双方にとって最適なマッチングを図ることで、常用雇用への移行率を高めることができます。詳細については、当サイトの別記事「障害者トライアル雇用助成金の申請・活用完全ガイド」をご参照ください。
職場環境整備・定着支援に活用できる制度
採用した障がい者が長期的に安定して活躍できる環境を整備することは、雇用率を維持・向上させる上で不可欠です。
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障害者職場環境改善助成金
- 概要: 障がい者の雇用管理に関する担当者の配置、職場施設の改善、職場支援員の配置、専門家による相談など、障がい者の職場環境を改善し、雇用の継続・安定を図るための措置を行う事業主に対して支給される助成金です。
- 雇用率への貢献: 障がい者の定着率向上に繋がり、結果として雇用率の維持・向上に貢献します。
- 活用ポイント: 障がい特性に応じた物理的な環境整備(設備の設置・整備等)だけでなく、雇用管理や精神面でのサポート体制構築にも活用できます。定着に課題を感じている場合に有効な制度です。詳細については、当サイトの別記事「障害者雇用における職場環境改善助成金:詳細解説と活用ポイント」をご参照ください。
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障害者介助等助成金
- 概要: 障がい者が職場において業務を遂行するために必要となる介助者や手話通訳者等を配置する事業主に対して支給される助成金です。
- 雇用率への貢献: 特に重度障がい者や特定の障がい特性を持つ方の雇用を可能にし、定着を支援することで雇用率の向上・維持に貢献します。
- 活用ポイント: 身体障がいや聴覚・視覚障がいなど、特定の障がい特性により業務遂行に介助が必要な場合に有効です。介助者の人件費負担を軽減し、雇用のハードルを下げることができます。詳細については、当サイトの別記事「障害者介助等助成金:利用企業が知っておくべき詳細要件と活用戦略」をご参照ください。
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障害者雇用安定助成金(令和5年度末で廃止)
- 概要: 障がい者の雇用を安定させるための措置(短時間労働者の雇用、重度障がい者の雇用継続等)を講じる事業主に対して支給されていた助成金ですが、本制度は令和5年度末をもって廃止されています。
- 補足: 制度の廃止や改正は随時行われます。常に最新の情報を確認することが重要です。
その他、雇用率達成を間接的に支援する制度・サービス
直接的な助成金ではありませんが、障がい者雇用率の達成や安定化に大きく役立つ国の支援やサービスもあります。
- 各種の支援機関の活用
- ハローワーク: 障がい者専門の窓口があり、求人紹介や企業の相談に応じてくれます。トライアル雇用助成金などの申請窓口でもあります。
- 地域障害者職業センター: 障がい者の職業リハビリテーション、事業主に対する専門的な支援(ジョブコーチ支援、職場適応援助、雇用管理に関する相談等)を提供しています。採用後の定着支援において非常に頼りになります。
- 障害者就業・生活支援センター: 障がい者の身近な地域において、就業面と生活面の一体的な相談・支援を行っています。企業は障がい者の生活面の課題について、センターと連携して支援を考えることができます。
- 活用ポイント: これらの機関は、採用から定着まで、障がい者雇用における様々な課題解決をサポートしてくれます。単に助成金情報だけでなく、採用や定着に関するノウハウや、障がい者とのコミュニケーションのポイントなども得られるため、積極的に連携を図ることが雇用率達成の鍵となります。
制度活用の具体的なポイントと最適な制度の選び方
法定雇用率の改善・達成に向けて、国の制度を効果的に活用するためには、以下の点を踏まえることが重要です。
- 自社の課題と目標の明確化: なぜ雇用率が未達成なのか(採用が進まないのか、定着しないのかなど)を分析し、具体的な数値目標を設定します。その課題解決や目標達成に最も資する制度はどれかを検討します。
- 制度の要件と手続きの正確な理解: 各制度には詳細な要件が定められています。対象となる企業規模、障がい者の種類、雇用の形態(常用雇用、短時間等)、取り組み内容など、自社の状況が要件を満たすか事前にしっかりと確認します。申請書類や手続きの流れも複雑な場合があるため、早めに情報収集を開始し、必要に応じて支援機関のサポートを受けます。
- 複数の制度の組み合わせ: 採用、職場環境整備、定着支援など、障がい者雇用の各段階で活用できる制度は複数あります。自社の状況に合わせて、これらの制度を組み合わせて利用することで、より効果的な雇用促進・定着支援が可能となります。例えば、特定求職者雇用開発助成金で採用を行い、同時に障害者職場環境改善助成金で設備投資を行う、といった組み合わせが考えられます。
- 制度は「手段」、目的は「安定雇用と活躍」: 助成金や支援制度は、あくまで障がい者雇用を進めるための「手段」です。制度の活用自体が目的とならないよう注意が必要です。重要なのは、採用した障がい者が企業の一員として長期的に安定して働き、能力を発揮できる環境を整備することです。制度を活用しつつ、社内の理解促進、受け入れ体制の構築、個別のサポート計画の策定など、企業自身の主体的な取り組みが成功の鍵となります。
まとめ:法定雇用率達成に向けた計画的な制度活用を
法定雇用率の達成は、法令遵守だけでなく、企業の多様性促進や新たな労働力確保といった観点からも重要です。未達成の場合のリスクを回避し、雇用率の改善・達成を目指すためには、国の様々な助成金や支援制度を計画的に活用することが有効です。
本稿でご紹介した制度は一部ですが、それぞれに目的や対象、要件が異なります。自社の現状を正確に把握し、どのような障がい者を、どのように雇用し、どのように定着を支援していくかという具体的な計画に基づき、最適な制度を選定し、複数の制度を組み合わせて活用することを推奨いたします。
また、ハローワークや地域障害者職業センターなどの支援機関との連携も、制度活用を円滑に進める上で非常に重要です。これらの機関の専門的な知識やノウハウを活用し、計画的に障がい者雇用を進めていくことが、法定雇用率の達成、ひいては障がい者雇用全体の成功に繋がるものと考えます。