【労務担当者向け】法定雇用率算定にも影響!重度・高年齢障がい者雇用促進のための国の支援制度活用ガイド
はじめに:重度・高年齢障がい者雇用の重要性と企業の課題
企業の法定雇用率達成は、持続可能な経営において重要な課題の一つです。特に重度障がい者や高年齢障がい者の雇用は、法定雇用率の算定において特別な取扱いがあるため、企業の雇用戦略を考える上で重要な要素となります。
一方で、重度障がい者や高年齢障がい者の雇用には、個々のニーズに合わせた丁寧な配慮や、職場環境の整備、通勤や業務遂行上のサポートなど、企業にとって新たな課題が生じる可能性もございます。
本記事では、こうした課題を解決し、重度・高年齢障がい者の雇用を促進するために活用できる国の支援制度に焦点を当てます。法定雇用率算定上の優遇措置から、具体的な助成金制度、そしてそれらを効果的に活用するための実践的なポイントまでを解説し、貴社の障がい者雇用における次のステップを支援いたします。
法定雇用率算定における重度・高年齢障がい者の取扱い
法定雇用率の算定において、特定の障がい者については通常よりも有利なカウントが認められています。この制度は、企業がより配慮が必要な障がい者を雇用するインセンティブとなり、法定雇用率達成に大きく貢献します。
重度身体障がい者及び重度知的障がい者の算定特例(ダブルカウント)
身体障がい者または知的障がい者のうち、厚生労働省令で定める重度の障がいをお持ちの方については、短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)の場合を除き、1人を2人として算定します。
- 対象: 重度身体障がい者、重度知的障がい者
- 算定方法: 1人 → 2人(週所定労働時間30時間以上の場合)
- 短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)の場合は、1人 → 1人として算定されます。
精神障がい者の算定特例(平成35年3月31日まで)
精神障がい者についても、令和5年4月1日から令和10年3月31日までの間は、暫定的に重度身体障がい者等と同様の算定特例が適用されています。短時間労働者を除き、1人を2人として算定します。
- 対象: 精神障がい者
- 算定方法: 1人 → 2人(週所定労働時間30時間以上の場合、令和10年3月31日まで)
- 短時間労働者(週所定労働時間20時間以上30時間未満)の場合は、1人 → 1人として算定されます。
高年齢障がい者(65歳以上)の算定特例
65歳以上の障がい者については、法定雇用率の算定においては1人を0.5人として算定します。これは、高年齢者の労働時間や勤務形態を考慮した特例です。
- 対象: 65歳以上の身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者等
- 算定方法: 1人 → 0.5人(週所定労働時間20時間以上の場合)
これらの特例を理解し、雇用計画に反映させることは、法定雇用率達成に向けた重要な戦略となります。特に、重度障がい者や精神障がい者の雇用は、一人当たりのカウント数が大きくなるため、雇用率への貢献度が高くなります。
重度・高年齢障がい者雇用に活用できる主な支援制度
重度・高年齢障がい者の雇用や定着を支援するため、国は様々な助成金やサポート制度を提供しています。ここでは、特に活用機会の多い制度を具体的に解説します。
1. 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
この助成金は、就職が特に困難な方をハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主に対して支給されます。重度障がい者や高年齢障がい者(60歳以上)は、この「特定就職困難者」に該当します。
- 制度の目的と概要: 就職困難者の常用雇用を促進し、安定した雇用機会の提供を支援すること。
- 対象となる企業・障がい者:
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により対象者を雇い入れること。
- 雇用保険の一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実と認められること。
- 対象者:
- 重度身体障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者
- 45歳以上の身体障がい者・知的障がい者
- 60歳以上の高年齢者
- その他、就職に特に困難な者
- 詳細な要件:
- 対象者を雇用保険の被保険者として雇用すること(週所定労働時間20時間以上)。
- 期間の定めのない雇用契約であること、または有期雇用契約であっても更新により期間の定めのない雇用となることが見込まれること。
- 離職理由による制限などがあります。
- 具体的な支給額:
- 対象者の区分や企業の規模(中小企業かそれ以外か)、週所定労働時間によって異なります。
- 重度障がい者・精神障がい者(週所定労働時間30時間以上):
- 中小企業:最大240万円(2年間で6期に分けて支給)
- 中小企業以外:最大120万円(同上)
- 重度障がい者・精神障がい者(週所定労働時間20時間以上30時間未満):
- 中小企業:最大120万円(2年間で6期に分けて支給)
- 中小企業以外:最大60万円(同上)
- 高年齢者(60歳以上、週所定労働時間30時間以上):
- 中小企業:最大72万円(1年6ヶ月で6期に分けて支給)
- 中小企業以外:最大60万円(同上)
- 高年齢者(60歳以上、週所定労働時間20時間以上30時間未満):
- 中小企業:最大50万円(1年で4期に分けて支給)
- 中小企業以外:最大40万円(同上)
- ※上記は令和5年度以降の主な支給額であり、改正される可能性があります。最新情報はご確認ください。
- 申請方法・手続きの流れ:
- ハローワーク等に対象者の求人を提出し、紹介を受ける。
- 対象者を選考し、雇用する。
- 雇い入れから6ヶ月ごとの期間(支給対象期)ごとに申請を行います。
- 申請期間内に必要書類を提出し、審査を経て支給されます。
- メリット・デメリット:
- メリット:長期的な雇用を前提とした高額な助成金が得られる、雇用率向上に大きく貢献できる。
- デメリット:ハローワーク等の紹介が必要、申請期間ごとに手続きが必要、離職等の場合は支給が停止・減額される。
2. 障害者介助等助成金
この助成金は、障がい者が職場に適応できるよう、職場への通勤や業務遂行に必要な介助を行うための費用を助成するものです。重度障がい者や高年齢障がい者の雇用において、特に活用が見込まれます。
- 制度の目的と概要: 障がい者の通勤や業務遂行を円滑にし、職場への定着を支援すること。
- 対象となる取り組み:
- 重度等通勤対策助成金:重度障がい者、高年齢障がい者等に対する通勤援助者の委嘱や、通勤用自動車の購入費等の一部を助成。
- 重度等職場介助等助成金:重度障がい者、高年齢障がい者等に対する職場介助者の配置や、手話通訳者等の委嘱費用等の一部を助成。
- 手話通訳者等派遣助成金、職場支援従事者育成助成金など、様々なメニューがあります。
- 詳細な要件:
- 対象となる障がい者を雇用していること、または雇用を予定していること。
- 介助等の措置が、対象障がい者の雇用継続・促進のために必要であると認められること。
- 各助成メニューごとに、対象となる障がい種別、措置の内容、費用の範囲等の詳細な要件があります。
- 具体的な支給額: 措置の内容や費用の種類(人件費、謝金、物品購入費等)によって異なり、上限額や助成率が定められています。継続的な介助の場合は、月額上限等が設定されています。
- 申請方法・手続きの流れ:
- 管轄のハローワークまたは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に相談。
- 助成金支給計画書を提出し、認定を受ける。
- 計画に基づいて介助等の措置を実施。
- 支給対象期(通常3ヶ月または6ヶ月)ごとに支給申請を行い、支給を受ける。
- メリット・デメリット:
- メリット:個別のニーズに応じた柔軟な支援が可能、雇用継続・定着に直接寄与する。
- デメリット:計画認定が必要、定期的な申請が必要、対象経費に制限がある。
3. 職場環境改善助成金
この助成金は、障がい者の雇用管理に必要な施設・設備の設置・整備等に係る費用を助成するものです。重度・高年齢障がい者の受け入れにあたり、既存の職場環境を整備する場合に活用できます。
- 制度の目的と概要: 障がい者の働きやすい職場環境を整備し、雇用を促進すること。
- 対象となる取り組み:
- 作業施設の改善:作業台の改良、点字表示の設置など。
- 作業補助器具の購入:拡声器、拡大読書器など。
- 施設の改良:階段への手すり設置、スロープ設置、洋式トイレへの改修などバリアフリー化。
- その他、障がい者の通勤、作業、その他の職場生活を容易にするための施設・設備の設置・整備。
- 詳細な要件:
- 対象となる障がい者を雇用していること、または雇用を予定していること。
- 改善措置が、対象障がい者の雇用継続・促進のために必要であると認められること。
- 対象となる施設・設備の種類、購入・改修費用の上限等が定められています。
- 具体的な支給額: 対象となる改善措置にかかる費用の3分の2(上限額あり)。重度障がい者等に係る措置の場合は、さらに助成率や上限が優遇される場合があります。
- 申請方法・手続きの流れ:
- 管轄のハローワークまたはJEEDに相談。
- 助成金支給計画書を提出し、認定を受ける。
- 計画に基づいて施設・設備の設置・整備等を実施。
- 完了後、支給申請を行い、支給を受ける。
- メリット・デメリット:
- メリット:初期投資の負担を軽減できる、物理的な環境整備により多くの障がい者にとって働きやすい職場になる。
- デメリット:計画認定が必要、対象となる経費に制限がある、支給は事後払いとなる場合が多い。
各制度の活用ポイントと注意点
重度・高年齢障がい者の雇用においてこれらの支援制度を活用するにあたり、いくつかの重要なポイントと注意点があります。
- 制度の併用: 特定求職者雇用開発助成金で採用後の助成を受けながら、同時に障害者介助等助成金で介助費用、職場環境改善助成金で設備改修費用等の支援を受けることは可能です。複数の制度を組み合わせて活用することで、より包括的なサポート体制を構築できます。
- 対象となる「重度」の定義: 各助成金制度において、「重度」の定義は障がい種別や等級によって細かく定められています。申請前に、雇用する障がい者が対象要件を満たすか、手帳等で正確に確認することが重要です。不明な場合は、ハローワークやJEEDに問い合わせてください。
- 「高年齢」の定義: 特定求職者雇用開発助成金における高年齢者は60歳以上、法定雇用率算定における高年齢者は65歳以上です。制度ごとに年齢要件が異なる点に注意が必要です。
- 申請手続きの計画性: 多くの助成金は、雇用または措置実施前の計画申請・認定が必要であったり、一定期間ごとの定期申請が必要であったりします。計画的に手続きを進めることが、確実に助成金を受給するために不可欠です。
- 最新情報の確認: 助成金制度は、雇用情勢や法改正等により要件や支給額が見直されることがあります。常に厚生労働省やJEEDのウェブサイトで最新情報を確認するように心がけてください。
- 雇用後の定着支援: 助成金はあくまで雇用や環境整備の「費用」を支援するものです。雇用後の障がい者の定着には、適切な配属、社内理解の促進、相談しやすい環境づくり、必要に応じた外部支援機関(障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センター、ジョブコーチ等)との連携が不可欠です。助成金活用と並行して、包括的な定着支援策を講じることが成功の鍵となります。
- 法定雇用率算定への反映確認: 雇用した重度・高年齢障がい者が、実際にどのように法定雇用率に算定されるか(ダブルカウント、0.5人カウントなど)を正確に理解し、算定書類作成時に反映されているか確認することが重要です。
実践的な活用戦略と事例
重度・高年齢障がい者の雇用を促進し、これらの制度を効果的に活用するための実践的な戦略と、いくつかの事例を提示します。
戦略例:
- 雇用計画と支援制度活用の連動: 障がい者雇用計画を策定する際に、重度・高年齢者の採用目標を設定し、それに必要な支援制度(特定求職者、介助等、環境改善等)をリストアップし、活用計画を同時に立てる。
- 社内体制の整備: 障がい者を受け入れる部署や社員に対し、制度の目的や内容、介助等の必要性について事前に研修等を実施し、理解と協力を得る。
- 外部支援機関との連携強化: ハローワークだけでなく、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、A型事業所やB型事業所など、地域の様々な支援機関と連携し、採用候補者の紹介や、雇用後の定着支援に関する助言・支援を受ける。
- 段階的な環境整備: 重度・高年齢障がい者の受け入れに当たり、一度に大規模な改修が難しい場合は、職場環境改善助成金を活用しながら、必要な箇所から段階的にバリアフリー化や設備導入を進める。
- 介助・サポート体制の構築: 障害者介助等助成金を活用し、社内に職場介助者を配置するか、外部の支援サービスを導入するなど、継続的なサポート体制を構築する。
架空の事例:
- 事例1:製造業C社(従業員300名)
- 課題: 法定雇用率が目標値に届かず、特に重度障がい者の採用が進まない。工場内の段差や設備も古い。
- 活用戦略: 重度身体障がい者の採用を目標に設定。ハローワークと連携し、特定求職者雇用開発助成金の活用を検討。同時に、工場内の主要動線や休憩室、トイレのバリアフリー化、作業補助器具の導入のために職場環境改善助成金の申請計画を立てる。さらに、採用後の業務遂行支援として障害者介助等助成金(重度等職場介助等助成金)の活用も視野に入れる。採用決定後、特定求職者雇用開発助成金を申請し、工事完了後に職場環境改善助成金、介助開始後に障害者介助等助成金を申請し、費用の負担を軽減しながら重度障がい者の受け入れと定着を図った。
- 事例2:サービス業D社(従業員150名)
- 課題: 以前からパートで勤務していた65歳以上のベテラン社員(軽度の知的障がい)が、週の労働時間を増やして安定雇用を希望。企業としては助成金があれば正社員雇用を検討したい。
- 活用戦略: 65歳以上の高年齢障がい者であるため、法定雇用率算定上は0.5人カウントとなることを確認。ハローワークに相談し、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース、高年齢者・短時間労働者以外)の対象となることを確認。本人と相談の上、週所定労働時間を30時間以上に変更し、期間の定めのない雇用契約を締結。助成金を活用しながら、長年の経験を活かせる部署で安定して勤務できる環境を整備した。
まとめ
重度障がい者や高年齢障がい者の雇用は、企業の法定雇用率達成に大きく貢献するだけでなく、多様な人材の活用や組織の活性化にも繋がります。国は、特定求職者雇用開発助成金、障害者介助等助成金、職場環境改善助成金など、これらの雇用を後押しするための様々な支援制度を用意しています。
これらの制度を理解し、貴社の状況に合わせて効果的に活用することで、雇用に伴う経済的な負担を軽減し、働きやすい職場環境を整備することが可能です。単に制度を利用するだけでなく、雇用後の定着支援や社内体制の構築と合わせて、計画的に取り組むことが成功の鍵となります。
本記事が、貴社の重度・高年齢障がい者雇用促進と、関連する国の支援制度活用の一助となれば幸いです。ご不明な点は、最寄りのハローワークや独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構にお問い合わせください。